「もうやめようかな」

俺は悪魔だ。

いくら父さんが恐ろしくても、それに従順に従う必要はない。

役立たず、出来損ないと罵られ、追い出されたって、本当はかまわないんだ。

「今日は、泊まっていくだろ?」

俺は勝手に横になった涼介のベッドの上で、うとうととしていた。

こんな狭いベッドで俺さまが寝られるかだなんて、喧嘩していたのも懐かしい。

「泊まっていくかどうかは俺が決めることであって、お前に指図されるようなことではない」

薄目をあけて、動きにくい口を動かして答える。

その返事を辛うじてしたのを最後に、俺は意識を失い、そのまま眠っていた。

朝が来て、涼介に揺さぶり起こされる。

「獅子丸、起きろよ。寝ながらよだれ垂らすなって、言っただろ」

「垂らそうと思って垂らしているのではない。よだれが勝手に垂れるのがいけないんだ」

目を覚まし、顔を洗う。

キッチンでは、涼介が料理をしていた。

「朝っぱらから、随分手のこんだものを作ってるんだな」

「制服以外の服は、持ってないの?」

そう言われて、俺は自分の胸に手をあてた。

「まぁ、ここではそうかもな」

「着替えて」

そう簡単に言われても、俺の普段の魔界での服装が、ここでは浮くのは分かっている。

「どうしたいい?」

「は? だから、着替えろって」

そう言われても困るから聞いてるのに。

俺はせわしなく料理を続けている涼介の背中を見た。

ベージュのゆるいズボンに、白地に緑のチェックが入ったシャツ。

とりあえず、それと同じ物に変えてみる。

だけど、まったく同じなのも何なので、ズボンの色を少し明るめに変えて、柄は緑から赤に変えた。

模様の付き方も少し変えておく。

「これでどうだ」

そう言ったら、涼介は振り返った。

「うん、悪くないんじゃない?」

涼介はTシャツの上にシャツを着ていたので、俺もTシャツ着てそこにシャツを羽織った。

これで文句はないだろう。

「さぁ、出来たぞ」

細々としたおかずが、少量ずつ並んでいる。

涼介は、同じプラスチックの箱を二つ取り出した。

「同じ箱を買ったのか?」

「今年は獅子丸と一緒に行こうと思って」

その弁当箱に、涼介は同じおかずを同じように詰めて、全く同じものを二つ作った。

「さぁ、出かけようか。獅子丸の分の、自転車を借りに行こう」