「アズラーイール、ここで俺と戦ってる間に、あの天使はゲスどもに喰われるぞ。それでもいいのか?」

天使の舌打ちと同時に、アズラーイールの姿は消える。

俺は、そこにいた涼介に視線を移した。

彼の足が、半歩後ずさる。

何を言っていいのか、分からなかった。

どうすれば俺の世界と、俺の立場が、涼介に分かってもらえるんだろう。

俺は何も悪くない。

俺が生きてきた世界のルールでは、これが当たり前なんだ。

ようやく二人で、話しが出来る。

「涼介」

俺は涼介に、一歩近寄る。

それだけのことに、どうしてこんなに苦しくなるのだろう。

「俺は、お前とちゃんと契約を結びたい。そうすれば、俺はお前と本当の友達になれるし、俺は誰にも邪魔されず、お前と一緒にいる根拠を得られる。そうじゃないと、俺は、お前のそばにはいられない」

涼介は、頭を横に振った。

「獅子丸、それは違う。俺は獅子丸と契約は結ばない。そんな約束をしなくったって、俺はお前のそばにいるし、友達でいられる」

「ウソだ!」

そんなあやふやな関係を、素直に信じられるようには、俺は出来ていない。

「そんな約束が出来るなら、なぜサインをすることをそれほど嫌がる。契約があるとないで、なにが違うというんだ」

「獅子丸」

涼介は、俺を見下ろした。

「アズラーイールの言っていたことは、やっぱり本当だったよ。君は君自身で、それを証明した」

「どういうことだ」

「さぁね」

涼介は両腕で、交互に目元をこすった。

「俺は契約なしでも、お前のそばにいつづけるし、お前は契約なしで、俺と友達でいる。それが出来ればきっと、獅子丸にもいつか、俺やアズラーイールの気持ちが分かる」

涼介を突き飛ばし、ねじ伏せることは簡単だった。

何の力も無い人間だ。

うるさいと言って叩きつけ、脅し、契約を交わせばいい。

そのための呪いや魔術を、俺はずっと習ってきた。

今さっき、俺があの天使に対してやったように、それと同じように、やればいいんだ。

人間なんて、天使に比べればずっとバカで間抜けで、弱く頭も鈍い。

そんな下等な奴らに、何の遠慮がいる。