「その手を放せ」

「嫌だね」

俺は天使を片手に、涼介とアズラーイールに向き直った。

「俺は悪魔だ。絶対にお前らの思うようには動かねぇってことを、ちゃんと覚えておけ」

天使の片翼に手をかける。

その翼を支える、一番太い骨をつかんだ。

「何をする! やめろ!」

俺は、その骨をボキリと折った。

気を失っていた天使は、悲鳴をあげ目を覚ます。

俺はそれを思いっきり、空の彼方へ放り投げた。

「きさま! 許さん!」

天使アズラーイールの顔が、怒りと憎しみで歪む。

俺はそれを盛大に嗤った。

「天使だって、怒ったり、何かを憎んだりするんだよ、涼介。こんなウソくさい偽天使を信じるのか? 契約を交わした悪魔なら、絶対にお前に服従する。どうだ、俺がほしくないか?」

涼介は、アズラーイールを見上げた。

「いいのか? あの傷ついたチビ天使の心にも、俺に対する憎しみと怒りが宿るぞ。大天使さまは、早くあいつを助けに行った方がよくないか? 天使の心が、闇に覆われるまえに」

俺はニヤリと笑った。

空に向かって、声をあげる。

「これは挨拶だ! 俺からの贈り物を受け取れ! この人間界に棲む低級無能な妖魔どもよ、我の施しを受けよ。天使の肉で力をつけ、ここへ集い、我一助となれ!」

じっと横で見ていた、スヱの体がピクリと動いた。

そのとたん、アズラーイールの体が、巨大な光に包まれる。

その光の矛先は、こちらに向かった。

「獅子丸さま、危ない!」

スヱは、その前に立ちはだかった。

「バカ、お前がどけ」

俺はスヱを抱き寄せ、残った片腕を掲げた。

俺の張った結界に、アズラーイールの放った聖なる波動は弾かれる。