「美味いぞ。俺は父さんたちが戦場で狩った天使の死肉を、新鮮なうちに生き血ごと丸飲みにするのが好きなんだ。少しぐらい塩とこしょうを振ったのも、悪くないぞ。ソースはなんにしようか」

俺は暴れる天使の喉元を、捕らえた右手でさらに締め上げる。

「そうだな。牛の脂でも溶かしてかけようか。もちろんその牛は、天界に住む金の牛からとった脂だ」

「獅子丸。その手を放せ」

現れたアズラーイールは、人間の姿のままだった。

「おや、東先生、授業はどうされたんですか?」

「教室を抜け出した不埒な生徒を追いかけて、ここまで来たんだ」

俺はもがき続けるチビ天使を、アズラーイールの前に突き出す。

「ほら、なぜ今すぐ攻撃をしかけてこない。早くしないと、このチビは本当に死ぬぞ」

「知ったような口を利くな。今ここでお前がその天使を殺してみろ。ただではすまされんぞ」

「俺のデビューを飾るに相応しい、盛大な争いにしてくれるのか? 悪魔公爵ウァプラの息子は、人間界で天使を殺し、アズラーイールと争ったと」

天使は舌を打ちならした。

「聖人の魂くらいで済ましてやろうって言ってんだ。俺の邪魔をするな」

「そのどちらも、天秤にかけるようなものではない。大人しく手を放せ」

「嫌だね」

俺は右手にさらに力を込める。

暴れていた天使の手が、ガクリと落ちた。

「獅子丸!」

「殺してねーよ。少し静かにしてもらっただけだ」

アズラーイールの後ろに、涼介の姿が見えた。

なぜ今ここにいる? 

まだ授業中のはずだ。

休み時間になった? 

俺を追いかけてきたのか、この天使を追いかけてきたのか。

俺の視界の端で、小さな天使がぶらりと力なく揺れる。

アズラーイールの、いつもすました無表情な顔に、徐々に感情が現れ始めた。