悪魔公爵鷲頭獅子丸の場合

「お前、どこから来た」

金の子牛はひづめを鳴らし、むき出しの大地を掻く。

太く短い角の先端を、俺に向けた。

「ラファエルの従属か」

そのまま突進してくる子牛を、ひらりと避ける。

「お前、昨日涼介の家に顔を出した、間抜けな下級天使だな」

「違う! 間抜けではない!」

金の子牛は、そう答えた。

「悪魔め、アズラーイールさまに、何を食べさせたのか、分かっているのか?」

「お前が代わりに食えばよかっただろ」

「昨夜、天上にお戻りになったアズラーイールさまは、一晩中毒気に苦しんでおられたんだぞ!」

子牛と目が合う。

俺は、大声を出して笑った。

「そうだったのか! さっきアズラーイールは、平気だと言っていたんがな」

「そんなわけないだろう! 魔界の邪悪な毒を盛られ、昨日は一晩、ラファエルさまがつきっきりで看病されたんだ!」

「へぇ、ラファエルが治療したのか。あのアズラーイールを?」

俺は驚いてみせる。

「すごいな。あの牛の骨には、特別な呪いがかけてあったんだ。お前はその術を見破ったのか?」

子牛は怒りにかられたまま、頭の角を振り回す。

「この嘘つき悪魔め、牛ではなく魚の骨だ!」

飛びかかる金の子牛を、俺はひらりとよけた。

「さすがは天使だ! なんでもお見通しだな!」

子牛は、昨夜のチビ天使に姿を変えた。

「この俺が、アズラーイールさまの、かっ……!」

俺はすかさず天使の喉元をつかみ、それを持ちあげる。

「獅子丸さま!」

「スヱ、天使の肉は喰ったことあるか?」

「あ、ありません! ありませんよ。食べたい、食べたいですぅぅ!」