「変わるもんだな」

「はい。私は、獅子丸さまに忠誠を誓います」

そういうとスヱは、俺の手をとった。

両方の手の平を合わせ、指を絡める。

「そのために、死地の沼から出てきたのです。ひと目あなたを見たその時から、心に決めておりました」

温かな手のぬくもりが、手の平から伝わる。

いつの間に、こんなにうまく化けられるようになった?

「獅子丸さま好みの、女になります」

そう言ったスヱの眉が、わずかに上がった。

「ん? 獅子丸さま、お好みのタイプは、涼介と同じですか?」

「俺が人間の女になど、興味が湧くわけないだろう。好きにしろ」

スヱの手をほどく。

歩き出した俺の隣に並んだスヱは、明るい色の、ふんわりとした肩までの髪を揺らす、女子高生の姿になっていた。

「ようやく、お役に立てそうです」

どうでもいい。

俺はそんなスヱを無視して、ぶらぶらと歩き始めた。

人間の街は、ごちゃごちゃとしていて、目にうるさい。

居心地は、悪くはないが良くもない。

何もかもが、入り交じっているせいた。

涼介の学校が終わるまで、どうやって時間をつぶそうか。

出てきた涼介と、何を話す? 

涼介は、俺に何を話そうとしていたんだろう。

通り過ぎようとしていた人気のない公園で、俺は空を見上げた。

「獅子丸さま、人間というのは、集団で動くものにございます。特にこの日本では、決められた時間通りに……」

「どけっ!」

俺はスヱを押しのけた。

キラリと上空の空が光る。

俺は大きく後ろへ飛び退いた。

ドンッ! 

激しい衝撃が、周囲の空気を奮わせる。

土煙の中から立ち上がったのは、全身を金色の毛でおおわれた雄牛だった。

まだ子供なのか、体は少し小さい。