そのまま出入り口に向かって、のろのろと進む。

同じように授業をサボっているらしい、山下と鉢合った。

「な、なんだよお前。学校来てたのか」

俺を見て、おどおどと後ずさる。

そうだ、コイツを使えばいい。

スヱは役に立たなくても、人間のコイツなら、アズラーイールの結界も無効だ。

指先から札束を取り出そうとして、ピリピリとした痛みが走る。

それに気をとられているうちに、山下はいつの間にか逃げ出していた。

くそ、ここから少し離れないと、俺はカネすら出せなくなったのか。

ふらつく足で、校舎を出る。

校庭を横切り、閉じられた校門を飛び越えた。

結界の外に出て、俺はようやくそこで、一息をついた。

額に流れる汗をぬぐう。

「獅子丸さまあぁぁあぁっ!」

どこで見ていたのか、すかさずスヱが駆け寄ってくる。

「あぁあぁぁぁ、ご無事でなによりですぅうぅぅっ」

腕にしがみつくスヱを、俺は振り払った。

「使えない奴に用はない。目障りだ、消えろ」

「おぉお、お待ちくださいいぃぃ! わた、わたくしめにも、何かお役目をぉぉ」

まだ少し息が苦しい。

スヱは俺を見上げた。

「お前は俺の、何の役に立てるっていうんだ」

「山下を使えますぅぅ。もうあの男は、スヱの言うことなら、なんでも聞くようになってますからあぁあ」

「あの男か」

スヱは、にやりとうなずいた。

「では今すぐ、奴に命じて涼介をここに呼び出せ」

「獅子丸さまぁ」

スヱは、下から俺を見上げた。

「人間には、人間世界での習慣がありますぅ。それに逆らうと、逆に手間が増えるだけにございます」

スヱは、俺の制服についていた髪の毛を口にくわえると、それを飲み込んだ。

「私は元は、人間でございます。人間を扱うには、それなりのコツが必要です」

スヱの体から、俺の髪の毛一本分の瘴気がわきたつ。

「はぁぁ」

スヱは両腕を胸の前で交差させ、じっとうつむいていたかと思うと、ゆっくりと顔をあげた。

「これで、ちゃんとした人間に戻れました」

スヱの肌の色つやが、すっかりきれいになった。

以前は灰色のくすんだ白に近かったのが、赤味を帯びた柔らかな白に変わった。

顔も面長のしっとりとした大人顔であったのが、17の高校生らしい、小さな丸顔になっている。