俺は教室に足を踏み入れた。

全身の皮膚が溶けていくかのように、ピリピリとした痛みとかゆみが走る。

俺はその両方を振り払った。

アズラーイールと目があう。

奴はふっと笑った。

「おはよう。席につけ」

くっそ。

あの野郎、絶対天使なんかじゃない!

「珍しいじゃないか、こんな朝から、ちゃんと学校に来てるなんて」

なんとか席までたどり着いた俺は、そこに腰を下ろした。

隣の涼介は、俺に声をかける。

「昨日は、ゴメン。俺はさ、獅子丸と……」

俺は今にも押しつぶされそうな肺から、深く息を吐き出し、もう一度吸い込んだ。

「俺は、お前との契約をとるまで、帰れないからな」

「それ、まだ言ってんの?」

「俺がここに来た理由だ」

「なんだよ。じゃあ、契約がとれたら、帰るわけ?」

「当たり前だ」

俺は涼介をにらみつける。

ここにこうして座っているだけで、俺は今にも吹き飛ばされ、かき消されそうだ。

「俺に消えてほしければ、さっさと契約しろ。それであの天使と、仲良くやってればいいじゃないか。邪魔はしない。契約さえとれればな。勝手にやってろ」

「あのさ、獅子丸。いいからちょっと、話しを聞け」

「俺を騙そうとした奴の話なんか、聞けるか」

それに黙りこんだ涼介を見て、俺は笑った。

「ま、俺もお前を騙して契約させようとしてんだ。同じか」

「そこ、授業が始まるぞ、静かにしろ」

アズラーイールこと東先生がそう言うと、クラスの連中は笑った。

この俺を笑いものにするとは、許せない。

俺は教壇に立つアズラーイールをギロリと見上げると、そのまま席を立った。

教室を抜け出す。

さすがの俺でも、いきなりのあの結界に囲まれた光の中では、息が苦しい。

廊下に出て、やっと一息つく。

あの野郎、校内にも結界を張りやがった。

そのままふらふらと、壁に手をつきながら校内を歩く。

ダメだ、一度このうっとうしい光の外に出て立て直さないと、さすがにしんどい。