魔界へ向かって、地を堕ちる。

この世界の底にたどり着くまで、どこまでもどこまでも堕ちていけば、やがて魔界にたどり着く。

俺は魔界の門をくぐると、自分のいるべき世界へと戻ってきた。

魔界の月が、空を飛ぶ俺の姿を影に落とす。

その気配を感じただけで、森に住む魔物たちは、怖れをなして逃げ出した。

涼介に触れられた腕の部分が、妙に生暖かい。

俺はその気持ちの悪い感触を振り払おうと、凍る湖の底に身を投げた。

一瞬にして、全身が冷たい傷みに襲われる。

このままずっと、ずぶずぶと湖の底に沈んでいようか。

泥に埋まって、涼介の寿命が来るころに、もう一度外に出て、それを奪いにいこうか。

長くたって、せいぜい100年程度だ。

ここでサボってたって、誰も文句をいう奴はいない。

甘かった。

自分の考えが。

出来損ないの俺には、不出来な俺には、みっともなく恥ずかしく、バカで間抜けでとろい俺には、人間の魂すら、ろくに奪えない。

そんな簡単なことすら出来ない俺に、どんな価値があるのだろう。

凍る湖の底は、とても暗くて静かだった。

俺は湖底の泥に身を沈めて目を閉じる。

そうか、100年経てば、あいつはもう死んでるな。

100年後に目覚めたんじゃあ、遅かった。

だとしたら、どんなに辛くても、嫌でも苦しくても、やることはやらないとダメじゃないか。

俺をバカにするような奴らに、俺を見下して、陰で笑うような奴らに、やっぱりあいつはダメな奴だったと、そう思われたままではいたくない。

湖の水は、肌を貫くように冷たくて、俺はその痛みと共に、じっと眠りについた。