「うるさい、静かにしろ」

「この俺が大人しく施しを受けたのを見て、こっそり腹の底で嗤ったか? 俺がそれに気づいていなかったとでも、思ったか? 残念だったな」

「そんな風には、思っていない」

「嘘だ。涼介、こいつらがどれくらい信用のならない最悪な生き物か、俺が教えてやろう」

天使はその言葉に、静かに俺を振り返る。

「今すぐ魔界からお前にエサを持ってきてやろう、悪魔から天使への施しだ。俺の食ったものがそうじゃないというのなら、お前にだって食えるだろ?」

俺は右腕を伸ばし、その手の平を上に掲げた。

取り出したのは、腐った魚の骨だ。

「俺はお前からの施しを受けたぞ。どうだアズラーイール、お前も俺からの施しを受けてみろ」

下級天使は、慌ててアズラーイールに飛びつく。

「お、おやめ下さい、アズラーイールさま! 間違っても魔界の食べ物など、決して口になさってはなりません!」

俺はそれを、奴の前に差し出す。

「どうだ、お前らのような低俗には、決して出来まい。そんな勇気もないだろう。俺は食ったぞ、さぁ、どうする?」

天界の住人は、決して魔界の食べ物を口にしない。

それは自らの体が、悪に染まることを極端に怖れるからだ。

そうやって自分たちが蔑み、見下す世界の住人のものを、どうしてこの中級に片足を突っ込んだだけのような天使が、口に出来るだろか。

「あ、アズラーイールさまがそれを召し上がるくらいなら、私が食べます!」

「ほほう、面白い。お前が食えば、即死だぞ」

にやりと笑う。

ここで天使が死ねば、それはそれで面白い。

その魂の価値は、涼介どころじゃない。

「すぐに親父のところへ、お前の魂を届けてやろう。ありがたく、魔界の大公爵の糧となるがよい」

間抜けな天使が震えている。

アズラーイールは、目の前に浮かぶ骨を手に取った。

それだけで、触れた部分から瘴気がたぎる。

「悪魔の前で、要らぬ口を利くものではない」

そう言うと、アズラーイールは、一口で骨を飲み込んだ。

「これで気が済んだか」

それを飲み込んでも、顔色一つ変えないアズラーイールに、俺はぐっと口を閉じた。

階級は俺より格下でも、それなりの実力はあるってことか。