「なんだ、男の姿で来たのか。女なら、涼介と二人きりにしてやってもよかったのに」

カチンときたが、これは挑発でイヤミだ。

それくらいは、俺にも分かる。

アズラーイールは、にやにやと笑っている。

「お前こそ、なんでずっとここにいるんだよ。忙しいんだろ? さっさと天界に帰れよ」

「お前が涼介の周りをうろついてんのに、帰れるわけがないだろう。お前が帰ったら、俺も帰る」

古くて狭い一軒家だ。

明かりのない廊下を数歩歩くと、すぐにキッチンに入る。

「やぁ、いらっしゃい」

その涼介の笑顔に、俺はなぜかドキリとする。

テーブルには、温かい料理が並んでいた。

「お前が全部作ったのか?」

「まさか、依留に手伝ってもらったんだ」

「そこに座っていろ」

俺は言われた通りの場所に座って、食事の準備を続ける涼介とアズラーイールの背中を見ていた。

兄弟のように並んで話しをしながら、手際よく作業の進むのが、なにかの違う世界の物語を見ているように感じられる。

二人が支度を終え、俺の前に湯気の立つ皿を置いた。

少し前までは、その役目は俺のものだったのに。

「人間界の食べ物は、食ったことがあるか?」

「ない」

アズラーイールにそう言われて、俺は即答した。

魔界の王子が、人間と一緒に暮らしていただなんて、口が裂けても天使に向かっては言えない。

人間界の食べ物など、そんなものは食い物ではないとまで言いたかったが、涼介の前なのでやめた。

涼介は、何も言わなかった。