「え、ええっと……」

「じゃあ、さ、獅子丸に、そう伝えておいてくれる?」

「う、うん。……分かった」

そう言うと、涼介は指先で俺の頬をなで、髪を耳にかき上げた。

「ふふ。めっちゃ俺好みなんだけど。すごいね、獅子丸なのが残念」

「そ、そういうこと、言うなよ!」

「なんだよ、せっかく化けてんだから、そこはちゃんとキャラ守れよ」

涼介は初めて、俺を見て淋しそうに笑った。

「こんなことしてまで、俺に合わせなくてもいいんだよ」

涼介は、教室を出ていく。

その背中に、アズラーイールが付きそった。

なんだよ、あいつら。

何がしたい? 

寄り添う二つの背中を見つめる。

アズラーイールまで、俺の邪魔を続けるってことか。

俺は、スカートの裾を握りしめた。

涼介を、奪われたような気分だ。

何一つ、俺のものではなかったけれど。

俺は、何がしたい? 

スヱに調べさせたら、アズラーイールは、東依留という名の、ハーフの設定で学校に侵入したらしい。

臨時講師とは、なんだ? 

赤茶の髪に、緑の目が印象的な、天使の時の姿をそのまま踏襲している。

髪も肩まで伸ばしたままで、異質な外見を、あえて取り繕おうとはしていなかった。

俺は涼介のところに、男の姿でいこうか、女の姿で行こうか悩んだ末、男の姿で玄関に立った。

「来てやったぞ、開けろ!」

スヱにも一緒に行ってみないかと誘ったが、そんな恐ろしいところに行けるのは、俺くらいだと言って、来なかった。

扉が開く。

「もっとマシな口のきき方はできないか」

現れたのは、アズラーイールだった。

分かっていたはずなのに、少しがっかりする。