「あぁ、ゴメンゴメン、じゃ、にんにくか? いやぁ~悪いんだけどさぁ、今うちに生のにんにくないんだよね、日を改めてもらえないかな。そん時にはちゃんとつき合ってやっから」

「にんにくも無効!」

涼介の目が、冷たく俺をにらむ。

「あのさぁ、実は俺、本当は知らない人と遊ぶ趣味ないんだよね。ほら、君さ、悪魔なんでしょ、さっさと帰りなさいよ。あ、それとも、もしかして迷子?」

涼介の手が、俺の背中に触れた。

追い出そうとして、背中を押される。

初めて人間に触れられた感触が、服の上からでも伝わってきた。

「俺に触るな」

初めての感触に、ドキドキする。

涼介は、ぱっと手を離した。

「なに? 悪魔にも、パーソナルスペースとかあるわけ?」

「なにそれ」

俺はとっさにメモを取り出した。

「人間の生態について、勉強中なんだ」

「そこはキャラ守ろうよ」

書き留める俺を見ながら、涼介は大きなため息をつく。

「えっと、あのさぁ、もうすぐ夕飯の用意をしないといけないんだよね。迷惑なんで、帰ってもらえます?」

「だから、契約してくれれば帰るって」

俺はペンと契約書を突きつける。

涼介はなにも言わず、くるりと背を向けた。

そのまま部屋を出て、階段を下りる。

「おい、こら、どこへ行く!」

俺はあっけにとられたまま、後を追いかけた。