人間の集まる、学校という場所に興味はない。

だけど涼介は、必ずそこにやってくる。

それが行動としてはっきり予測出来るのは、ありがたい。

俺は学校の廊下を歩きながら、どうしようかと考えていた。

俺のかけた呪いが効かなかったのは、アズラーイールの祝福があったせいだ。

それを解除するか、さらに上回る呪いをかけるかだけど……。

昨日授けられた新たな祝福によって、保護が強化されていることを思えば、面倒だった。

単純に殺して、肉体を離れた魂を手に入れることだって出来るけど、それでは価値が下がる。

そのうえ、未契約の魂には、誰かの所有権があるわけではない。

アズラーイールが来ているとなれば、涼介が死んだとたんに、天使と悪魔の間で争奪戦が起こるだろう。

そんな争いが起こっても、もちろん負ける気はしないが、俺のような上級の悪魔がすることじゃない。

兄さんやサランにバレたら、いま以上に見下され、バカにされるだけだ。

「獅子丸さま!」

廊下の角から姿を現したのは、スヱだった。

それは生前の姿を模しているのか、それとも今の流行に合わせて、形を変えているのかは分からなかったが、長い黒髪に、肌の色の白い、それなりに整った女の姿になっていた。

「なんだ。きちんと化けられているじゃないか」

そう言うとスヱは、俺に駆け寄り、自分の腕を俺に絡める。

「いつもは涼介がいるから、どうしても人間の形を保つのが難しいんですぅ」

あぁ、なるほどね。

俺は何かをしゃべり続けるスヱを無視して、再び考え始める。

まぁ、自分自身が動くよりも、このスヱを使って涼介にサインさせる方が、俺のプライドは保たれる。

兄さんたちにも、言い分けが出来る。

こんな低級妖魔、限りなく頼りないけど。