「獅子丸、俺は、お前のことが好きだよ」

「ウソつけ!」

そんな言葉を素直に信じられるほど、俺は都合良く出来た、単純な悪魔なんかじゃない。

「いいだろう。所詮振り出しに戻っただけだ。俺はお前との契約をとるために、この世界に来た。それだけが唯一の目的だ。悪魔の呪いに、精々抗い続けるといい」

涼介の、真っ直ぐな視線と目が合う。

俺はそれを、しっかりとにらみ返した。

「次からは、もう遠慮はしない。それだけは嘘じゃない。本当だ」

「獅子丸」

「ちょうどよかった。なかなかうまくいかなくて、次の手をどうしよかと思っていたところだ」

背に、悪魔の黒い翼を広げる。

こんな姿を涼介に見せるのは、初めてかもしれない。

「せいぜい、覚悟しておくんだな」

闇に向かって、俺は飛び上がった。

それは加速して、どんどん加速して、さらに速度を上げ、いつしかそのスピードは、俺の記憶を塗り換える。

俺はここに、遊びに来たんじゃない。

偉大なる悪魔の試練を、受けにきたんだ。

俺は悪魔として、一人前になれるよう、早く兄さんたちのように、父さんの力となれるよう、そのための修行に、ここに来たんだ。

だからこそ父さんは、俺を作りだし、サランに授け、サランはそれを育て、それを父さんは、生かしているのだ。

じゃないと父さんは、こんな俺なんかを作らない。

こんな試練も、与えない。

俺は、涼介と、友達なんかじゃない。

友達という意味が、まだよく分からない。

だけど、契約を交わすということは、そういう意味ではないはずだ。

それを分かっているからこそ、涼介は俺と約束しようとしないんだ。

涼介と仲間になるなんてことは、俺には絶対にありえない。

それを、忘れるな。

俺は、俺がこの世界に存在する意味と、ここに居る意味とを、もう一度思い出した。