「もういい。いいよ。正直に言うと、俺だって完全にお前を信じていたわけじゃなかったんだ。ゴメン、悪かったよ。だから、いいんだ」

「俺は最初っからずっと言ってたじゃないか、お前と契約するために来たって!」

「なんだよ、やっぱり結局は、あれもこれも、全部そのためのウソか」

学校で一緒に過ごしたこと、魔界の屋敷を抜け出したこと、ついさっきまであった、何もない平和な日常という時間。

そこにアズラーイールは、割って入る。

「涼介、きみはたった今、新たに浄化されて、そのことに気づけたんだ。それは君自身の力だ。悪魔の言葉になど、耳を傾ける必要はない」

アズラーイールが、涼介の肩を抱く。

その胸の中で、俺は確かに、涼介の頬を流れる何かを見た。

「悪魔に取り憑かれたものは、自らの力でそれを追い払わなくてはならない。出来るか?」

「分かりません」

「私も手伝おう」

アズラーイールは、涼介の頬をぬぐった。

「ちょっと待て。涼介、お前は突然現れたこいつを信じて、俺を切るっていうのか」

「お前だって、突然やってきたことに、変わりないだろ」

「俺は……」

俺は、次の言葉を飲み込んだ。

悪魔の世界に、信頼などという曖昧な関係は存在しない。

支配か、従属があるだけだ。

決めるのは、俺じゃない。