「獅子丸さまぁぁ! お助けに参りましたぁぁ!」

そう言って飛び出してきたのは、スヱだった。

スヱは山下たちの足元に、自ら引きずってきたヘドロを撒き散らす。

きつい異臭が、ツンと鼻をついた。

「さぁああぁぁ、おいでなさあぁぁぃい。その泥で、べったべたにして差し上げますうぅう」

広がった泥が、山下たちに覆い被さった。

スヱの意思で動くぬるぬるとした泥の一部が、山下の首を締め上げる。

「スヱさん!」

「あははぁぁはぁぁっ! たっのしぃぃ!」

「スヱさん、もうやめて!」

「ザコどもの始末は、このスヱのお役目ですからああっぁあ!」

高く持ちあげられた山下の体は、そのまま地面に叩きつけられた。

泥はさらに、その足をつかんで、執拗に持ちあげる。

「二度と獅子丸さまにちょっかいを出さぬよう、このスヱがお役に立ってみせますぅぅ!」

「獅子丸!」

「スヱ、やめろ」

涼介に促され、俺がそう言ったら、スヱは泥を引き上げた。

山下たちは、文字通りさっさと逃げ去る。

「どうでしょうぅぅ、スヱの働きはぁあわぁぁ! おやく、おやくにたてましたでしょうかぁぁ!」

「うんうん、たったたった」

にやりと、両耳近くまで口の裂けたスヱが微笑んだ。

「獅子丸さまにはぁぁ、ご機嫌うるわしゅぅぅ! わたくしめもぜひ、獅子丸さまの、獅子丸さまの配下にいいぃぃ……」

悪魔の嗅覚が、不穏を嗅ぎ取る。

俺は空を見上げた。

頭上に、嫌な雰囲気の、大きな気配がする。

「ひいいぃぃぃい!! でたぁぁあっ!!」

スヱはその姿を見届ける前に、慌てて逃げだした。

俺は、ぐっと拳を握りしめ、それを迎える。