悪魔公爵鷲頭獅子丸の場合

頭上に影が差す。

ふと顔をあげると、いつぞやの人間が目の前にいた。

「よお。お前、まだいたのか」

俺から金を受け取って、涼介を屋上に連れてきた、バカ。

「まだいたのかじゃねぇ、それはこっちのセリフだ」

その男は、涼介を見下ろした。

「あれからなぁ、俺はさんざんな目にあったぞ」

見れば左のこめかみに、深い傷跡が増えている。

悪魔から手に入れた金をつかったんだ。

まともな作用が起こるわけがない。

金は力だ。

その力で買う能力には、悪魔の呪いがつきまとう。

その彼の後ろには、4、5人の制服を着た人間がいた。

「俺は何も悪くない。そうだろ? 俺が渡した金を、お前がどう使おうが勝手だし、その結果がどうなろうと、全てはお前の運次第だ」

そう言ったら、男はイライラと頭を掻く。

「うるせー、そんなことは分かってるよ!」

「山下先輩、もうやめましょう」

「そういうお前は、なぜコイツと一緒にいるんだ?」

山下と呼ばれた男は、まだ続けるようだ。

「どうやってコイツを手懐けた。いくらもらって『友達』やってる? さぞかし気分いいだろうな。なんでも言うこときいて」

「違いますよ」

「涼介もさぁ、こんなところでぼやっと座ってないで、また俺たちと一緒に遊ぼうぜ」

その胸ぐらをつかむように、伸びてきた山下の手を、涼介は振り払った。

「おい、てめぇ相変わらずいい度胸してんな」

「もう、縁は切れたはずです」

「そんな淋しいこと言うなよ。俺とお前の仲じゃないか」

山下は笑った。

涼介の少しイラついたような態度に、俺はため息をつく。

「なんだ、また金が欲しいのか?」

この山下という男は、とても素直で分かりやすい。

俺がポケットから札束を取り出そうとしたら、その手を涼介は止めた。

「山下さん。俺と獅子丸の間には、なんの約束も取り引きもありません。帰ってください」

「ウソつけ! そんなわけねぇだろ」

俺は山下の姿をじっと見上げる。

そう、そうなんだよ、本当に何にもないんだ。

それが俺にも、不思議なんだ。