学校が終わったら、毎日買い物をして帰る。

その日の夕飯の材料を買って、一緒に準備をする。

最近は俺も、それなりに手伝う。

買い物の帰りには、寄り道をすることもある。

公園でブランコに乗ったり、滑り台をしたり、影踏みなんかをしながら、家に帰った。

「少しは、人間の世界にも慣れた?」

日の暮れた帰り道、ベンチに並んで腰掛けた俺に、涼介は聞いた。

「あぁ、うん」

俺はどう答えていいのかが分からずに、適当に言葉を濁す。

涼介は機嫌がいいみたいで、一人で勝手にどうでもいいことをしゃべり続けていた。

いつもの遊歩道の、そこに行き交う人間は、やっぱり誰もが幸せそうだった。

俺には今のこの風景の方が、幻のようにずっと感じている。

これが人間の住む本当の世界だというのなら、俺の知る世界は、一体どこにあるのだろう。

ここは地獄か天国か、だなんて、そんなことを言うつもりはないけど……。

俺は、隣に座る涼介を見た。

涼介は、今のこの無風状態のような生活を、どう思っているのだろう。

これが涼介の望んでいることなのだとしたら、俺にはどうしたらいいのかが分からない。

首に縄をつけられた犬が、俺を見てけたたましく吠え立てた。

尻尾を股に挟み込み、完全に怯えきったその茶色い中型犬は、人間に引きずられるようにして、俺の前を通り過ぎていく。

「獅子丸は、犬が嫌いなの?」

「どうして?」

「いや、犬嫌いは犬が知るって言わね? 犬好きは犬が知るとも言うけど」

「俺は……、犬は、嫌いだ」

犬なんて、大嫌いだ。

だけどそれは、魔界では決して口に出しては言えない。

俺は今ここで初めて、涼介に言う。

「嚙まれたことがあるんだ。死にかけたし、殺されかけた。今でもなんで、助けられたのかが分からない」

その時の傷跡は、消さずにわざと残してある。

あの時の恐怖と痛みと恨みと憎しみと怒りとを、決して忘れないように。