悪魔公爵鷲頭獅子丸の場合

「ほおらぁぁぁ! 人間だ!」

「あの出来損ないは、余計なことしかしやがらねぇ!」

「言わなきゃ! 言わなきゃ! あのお方に、報告を!」

「臭えぇぇよおっっっ! 俺さまの鼻まで、ひん曲がりそうだ!」

どれだけ銅像が騒いでも、台座から動くことは出来ない。

こいつらを黙らせる魔法は、仕掛けてあったはずなのに!

俺は立ち止まって、呪文を唱え始めた。

どうせあの兄さんたちの仕業だ。

ここに入り込んで、サランまで黙らせることが出来るのは、父さんかアイツらしかいない。

涼介は先を走り続けている。

俺はザコ共の動きを封じる呪文を唱えた。

先を走るその涼介の目の前で、武器庫の扉が破られる。

飛び出した鎧の騎士が、魔剣を片手に涼介の前に立ちふさがった。

ガチャガチャと音をたて不器用に動く、影だけで操られた鎧の騎士は、涼介に向かってその剣を振り下ろした。

間一髪のところで、涼介はその刃を避ける。

「いいから、走れ!」

俺は作りだした火球を、鎧の騎士に投げつける。

操られた鎧は、簡単に崩れ落ちた。

ここはサランと俺が張った、結界に守られた屋敷の中だ。

兄さんたちといえども、実体で現れない限り、そう簡単には入り込めない。

バラバラになった甲冑が、再び集結を始める。

涼介がゲートをくぐり抜けたのを見届けると、俺も走り出した。

「サラン!」

ドラゴンの背が、俺の視界を塞ぐ。

残りの廊下を走りきり、ゲートに飛び込んだ。

その瞬間、魔界との扉は消滅する。

サランの仕業だ。

これで屋敷とこの家とのつながりは、きれいに消されたはずだ。

「やっぱり、やめとこう」

荒くなった呼吸を整える。

ゲートの設置はいい。

俺の屋敷に入れるのは、原則として俺とサランだけだから、涼介のことは、サランに伝えておけばいい。

問題は、人間のにおいに勘づいた奴らが、群れて押し寄せることだ。

「……。お前が魔界に入ると、死ぬ」

「……。まぁ、獅子丸がそういうんなら、遠慮しておくよ」

目が合った。

どちらがどうということもなく、俺たちは笑い始める。

「お前んち、すげーな」

「ずっと監視されているんだ」

それは誰からも、俺が信頼されていない証拠。

「あんな騒ぎを起こした後だと、うちには帰りにくいな」

涼介の手が、俺の肩にポンと触れた。

「だったらやっぱり、ここでシェアハウスしようぜ」

涼介は、にっと笑う。

「仕方ないな」

そう言いながらも、俺は快くうなずいた。