「こっちが春用の寝室で、こっちは本を読むための部屋。図書室はその隣だ。ここは夏にくつろぐための部屋で、ここは、武具関係の収納庫」

扉を開ける。

ここに並んでいるのは、どれもこれも魔界の名工が作った名のある品ばかりだ。

「すげー、触っていい?」

「ダメ」

俺はすぐに扉を閉める。

「悪魔の武器だ。悪魔以外が身につけると、呪われるぞ」

そこからまたしばらく歩いて、俺は自室としているお気に入りの部屋の扉を広げた。

30メートル四方はある部屋に、天蓋付きのベッドと机、テーブルが置いてある。

床から天上まで、5メートルはあろうかという高さの窓が、庭に面した一面を覆っていた。

窓の向こうには、どこまでも続く魔界の森が広がっている。

「ここが、俺の部屋」

椅子に座ると、くるりと涼介を振り返った。

「まぁ、好きなところでくつろぎたまえ」

パチンと指を鳴らすと、ソファのセットが現れる。

涼介はそこに、おそるおそる腰を下ろした。

「すげーな、お前。ただもんではないと思ってたけど、本当にただもんじゃなかった」

「ようやく分かったか」

壁に掛けた絵画の中の鳥が、ぐるりと頭を回した。

「人間の臭いがする! この屋敷の中に、人間が侵入した!」

「騒ぐな」

そう俺が命じたのに、黒死鳥は画の中から飛び出した。

涼介の周りを飛び交い、さかんにその頭をつつく。

「コイツだ! こんなところまで入って来やがった! なんだ? この人間は、せい……」

俺はその鳥をわしづかみにすると、片手で握りつぶした。

それを画の中に放り込む。

黒死鳥の死体は、まだそこでヒクヒクと動いていた。

ふいに現れた見知らぬキツネが、さっとそれを咥えて走り去る。

「早速嫌なのに見つかったな」

そう言って立ち上がった俺を、涼介は見上げた。

「え、なに? どういうこと?」

「やっぱり、すぐに戻ろう」

「え、でも、せっかくだし、もうちょっと……」

「ダメだ」

廊下に出た時には、既に遅かった。

等間隔に並ぶ銅像が、一斉にしゃべり出す。

「おい! これはどういうことだ!」

「またあのバカ息子の仕業だよ!」

「臭い! 臭いぃぃぃ!」

俺は涼介を振り返った。

「あのゲートまで、走るぞ」

その腕をつかもうとして、俺は空をつかむ。

涼介は俺の腕に、自分の手を重ねた。

「大丈夫、俺は全力ダッシュするから」

「OK、それで行こう」

目と目を合わせる。

それを合図に、俺たちは走り出した。