「なんだよ、これ!」

そのまま、ガラガラと自分たちが地に堕ちていくように見えるのは、妖魔の見せる幻覚のせい。

「落ち着け。ここは、亜空間だ」

「なんだよ、それ!」

「結界の一種」

「獅子丸さまぁ! 魂の契約に、我も手助けいたしますぅ!」

闇の奥から現れたのは、巨大なイノシシの姿をした妖魔だった。

地面から現れたと思ったら、すぐにスヱと同じように、体が溶け始める。

「あぁぁあぁぁ、まぶしい! どうか、どうかその魂を手に入れたあかつきには、我にも一口、一口だけでも、その魂を分け与え下さいませぇ!」

イノシシは、涼介に向かって突進する。

その体は、涼介をすり抜けた。

巻き上げられた剛風は、地を割り、その破片は頭上から降りそそぐ。

「やめろ、邪魔をするな!」

涼介の周囲に、結界を張る。

それでもあふれ出る祝福の明かりは、妖魔の体を溶かし続けた。

「あぁぁあぁぁ! 髪の毛! あの沼女に与えたのと同じ髪の毛を、我にもお授け下さいぃ!」

半分ほど溶けた体で、イノシシは苦しげに身もだえる。

「さればこのわたくしめが、その者にサインをさせてみせましょう! ただし! そのあかつきには、我の働きに応じ、その魂を、その魂をひとくちぃぃ!」

もう目は見えていないのか、イノシシは俺の張った結界に突っ込んだ。

その勢いで、自らの体がぐちゃりと潰れる。

「あぁぁあぁぁ! お助け下さいませぇ! その、その魂の欠片か、髪の毛一本で、我は、我は蘇りますぅぅ……」

丸く張った結界の縁に従って、溶けたイノシシの体は流れ落ちた。

やがて地面に吸い込まれたそれは、濡れたような痕跡だけを残して消えてゆく。