「結構ですので、他をあたって下さい」

「いや、こんなおいしい話しを他にふる奴なんか、いねぇだろ」

「いらねぇっつってんだ。よそでやれ」

涼介は、契約書を突き返す。

「ほら、受け取れ、なんだよ、さっさと受け取れよ」

「あ、あぁ。うん。それはちょっと……」

本来なら、さっさとそうしたいところだが、親父の矢がコイツの頭に刺さっている以上、俺はコイツと契約を取らなければ、息子として、偉大なる悪魔公爵家の跡取り息子として、認められない。

「俺はお前と契約しなければならない理由があるんだ」

「やっぱ何か裏があるし!」

涼介はそれを俺の胸に押しつけると、追い払うように手を振った。

「もういいから帰って。お疲れさまでした。他に需要はあると思うので、そっちの方に行ってください」

「帰ってほしけりゃ契約しろ! それがお前の望みなら、契約後に俺はお前の目の前から姿を消す! 二度とここへは来ない!」

涼介は小さな金属板を取り出した。

その光る板の表面を指でなぞる。

「えぇっと、こういう場合は不法侵入で、警察に連絡すればいいのかなぁ」

「連絡するな!」

「じゃあ出て行け!」

大きな声を出すと、涼介は人間のくせにそれなりの迫力がある。

俺は一歩も引く気のない構えで、奴を見上げた。

「おい、どこの誰だか知らねぇが、いきなり窓から入ってきて、なんなんだよ、さっさと帰れよ」

くっそ。

どうしてこうも面倒な奴の頭に、矢が刺さってんだ。

その後頭部に突き刺さった金の矢が、何よりも憎らしい。

しかたない。

作戦をちゃんと練り直してから出直しだ。