「人間は、人間から生まれるというのは、本当か」
「え? そうだけど。悪魔は違うの?」
「悪魔は、素材となるものに魔力を注ぎ込んで、そこから作られる。その素材が違えば、能力も異なる」
俺は、人間から生まれた。
だからこんなにも、ヒトが気になるのだろうか。
涼介は店の中で振り返って、「これ食べる?」と聞いて来た。
俺は首を横にふる。
一人で暮らしている涼介は、自分の食べる分だけを籠に入れておけばいいのに、時々俺に、そんなことを聞く。
「夕飯、一緒に食べる?」
「いや、帰る」
「そっか」
買い物を済ませて店の外に出ると、電柱に犬がつながれていた。
その犬は俺を見たとたん、ギャンギャンと狂ったように吠え始める。
やかましい。
犬には、俺の正体が分かるのか。
それを踏みつけ、黙らせようとした俺に、涼介は驚いた。
「お前、なにするつもりだ!」
「え? 踏みつぶす」
持ちあげた足で、それを踏みつけようとした瞬間、俺は涼介に体を押されて、バランスを崩した。
目標を外した俺の足は、堅いアスファルトを踏みつける。
怯えきった小さな犬は、俺の足に噛みついた。
短くつながれたロープのもとでは、この犬に逃げ場所はない。
「おい、やめろって!」
それを蹴り上げようとした時に、騒ぎを聞きつけた飼い主が飛び出してきた。
その犬は飼い主によってたしなめられ、抱き上げられてもまだ、俺に向かって吠え狂う。
俺はその犬に向かって、つばを吐き捨てた。
「獅子丸!」
飼い主に向かって、涼介は「すいませんでした」と頭を下げた。
噛まれたのは俺なのに、飼い主の方は俺を見ようともしない。
「おい、このクソ犬が俺の足を……」
文句を言おうとした俺の腕を引っ張って、涼介は歩き出す。
「話しがまだ終わっていない」
「もう終わりにしたんだよ」
犬は飼い主の腕の中で、まだぶるぶると震えている。
俺の吐いた唾のかかったところから、ただれた皮がごっそりと削げ落ちた。
まあいいや。
俺の呪いの唾を受けた犬だ。
すぐに死ぬ。
いつもの川沿いの遊歩道、そこのベンチに俺を座らせると、涼介は噛まれた足を見せろと言った。
牙の跡がくっきりと赤い丸になり、周囲は内出血で青黒く変色している。
「本気で噛まれてるじゃないか」
「今は人間の体だからな。すぐに直る。痛みはない」
「痛かっただろ?」
「いや」
この足から伝わる感覚は、『痛み』と表現するようなものではないんだ。
「こういうのは、『痛い』とは言わない」
「え? そうだけど。悪魔は違うの?」
「悪魔は、素材となるものに魔力を注ぎ込んで、そこから作られる。その素材が違えば、能力も異なる」
俺は、人間から生まれた。
だからこんなにも、ヒトが気になるのだろうか。
涼介は店の中で振り返って、「これ食べる?」と聞いて来た。
俺は首を横にふる。
一人で暮らしている涼介は、自分の食べる分だけを籠に入れておけばいいのに、時々俺に、そんなことを聞く。
「夕飯、一緒に食べる?」
「いや、帰る」
「そっか」
買い物を済ませて店の外に出ると、電柱に犬がつながれていた。
その犬は俺を見たとたん、ギャンギャンと狂ったように吠え始める。
やかましい。
犬には、俺の正体が分かるのか。
それを踏みつけ、黙らせようとした俺に、涼介は驚いた。
「お前、なにするつもりだ!」
「え? 踏みつぶす」
持ちあげた足で、それを踏みつけようとした瞬間、俺は涼介に体を押されて、バランスを崩した。
目標を外した俺の足は、堅いアスファルトを踏みつける。
怯えきった小さな犬は、俺の足に噛みついた。
短くつながれたロープのもとでは、この犬に逃げ場所はない。
「おい、やめろって!」
それを蹴り上げようとした時に、騒ぎを聞きつけた飼い主が飛び出してきた。
その犬は飼い主によってたしなめられ、抱き上げられてもまだ、俺に向かって吠え狂う。
俺はその犬に向かって、つばを吐き捨てた。
「獅子丸!」
飼い主に向かって、涼介は「すいませんでした」と頭を下げた。
噛まれたのは俺なのに、飼い主の方は俺を見ようともしない。
「おい、このクソ犬が俺の足を……」
文句を言おうとした俺の腕を引っ張って、涼介は歩き出す。
「話しがまだ終わっていない」
「もう終わりにしたんだよ」
犬は飼い主の腕の中で、まだぶるぶると震えている。
俺の吐いた唾のかかったところから、ただれた皮がごっそりと削げ落ちた。
まあいいや。
俺の呪いの唾を受けた犬だ。
すぐに死ぬ。
いつもの川沿いの遊歩道、そこのベンチに俺を座らせると、涼介は噛まれた足を見せろと言った。
牙の跡がくっきりと赤い丸になり、周囲は内出血で青黒く変色している。
「本気で噛まれてるじゃないか」
「今は人間の体だからな。すぐに直る。痛みはない」
「痛かっただろ?」
「いや」
この足から伝わる感覚は、『痛み』と表現するようなものではないんだ。
「こういうのは、『痛い』とは言わない」