涼介たちは、少し濡れて重たくなったタオルを丸め、それをぶつけ合って遊んでいる。

俺が楽しいと思うのは、その全員を打ちのめし、ひざまずかせ、やめてくれと懇願してくるまで、攻撃をやめないことだ。

それで自分が勝ったと思えた時に、俺は『楽しい』んだ。

魔界では、そう教え込まれる。

涼介の仲間が、俺にタオルを投げた。

それは俺の腕に当たってはね返り、地面に落ちる。

どうしていいのか分からず、そのまま立っていたら、涼介はそれを拾った。

「じゃ、そろそろ帰るか」

よく分からないけど、そこでのその、何の生産性もない遊びは終わった。

学校を出ようとする涼介に付いて、道を歩く。

「大人しくなったね」

ふいに涼介は言った。

「どういう意味だ」

「別に。普通になった」

普通という意味が分からない。

涼介はほぼ毎日の帰りに、スーパーと呼ばれる店に入る。

入り口で籠を手に取ると、そこに並べられた食べ物を入れていった。

人間界の食べ物は、天界の物に比べると遥かに見劣りはするが、かといって魔界の物よりも、うまそうだとも思えなかった。

そもそも、人間と同じものなど、食べたくない。

「なぜ人間は、食事の時に仲間と並んで食う」

俺はいつも、屋敷の広いダイニングルームで、魔法のテーブルクロスから出てくる食事を一人で楽しむ。

たまに別の悪魔が同席することもあったが、食べる時は、ただ食べるだけだ。

何も答えない涼介の、横顔を見る。

俺は、彼の脳に触れたことで知った記憶を、呼び起こした。

「普通に、人間も一人で食べるもんだろ」

「まぁ、そうだよね」

「涼介は、誰かと食べたいか?」

「別に」

涼介は俺と同じだった。

誰もいない家に一人で住み、何もかもを全て、一人でこなしている。

「俺も一人だけど、涼介も一人だ。それが普通かと思った。違うのか?」

「普通だよ」

その答えに、俺は満足する。

人間と悪魔に、違いはない。