「これは、どういうルールなんだ?」

そう聞いた俺に、涼介は説明を始める。

同じチームだという連中も混ざって、勝ちの条件と、やってはいけない行為を教えられた。

「とにかく困ったら、味方にパスしろ」

ホイッスルがなる。

コートに5人が整列する。

「いま、お前の目の前にいる奴が、お前のマークする相手だ」

涼介が耳元でささやく。

一番背の高い涼介がジャンプしてボールを奪うと、試合は始まった。

10人が、同じ方向に向かって走り出す。

ふいに、涼介と目があう。

その瞬間、ボールが飛んできた。

「走れ!」

そう言われても、俺の目の前には相手チームのメンバーがいて、両手を広げ立ちふさがっている。

「こっちだ、獅子丸!」

同じ色のナンバリングをつけた、涼介ではない人間が、片手をあげた。

俺はそこに向かって、ボールを投げる。

それは相手の手にすっぽりとはまって、彼は再び動き始めた。

それは、俺にとっては、とても不思議な光景だった。

俺は誰かから受け取っただけのボールを、すぐに投げて、それを受けた相手は、また走り出す。

一つのボールをめぐって、俺以外の9人が、走り出す。

自分はその中にいて、他の人間から見れば、俺もまたその10人の一部であることが、たまらなく不思議だった。

シュートに失敗したボールを、相手チームのメンバーが奪いとった。

俺の目の前にいた奴だ。

そいつがこちらに向かって走ってくる。

俺はチームの一員として、それを止めなければならない。

俺は、両手を広げ立ちふさがる。

その瞬間、ヤバイ、すり抜ける! と思った体は、ちゃんとぶつかって、俺は床に投げ出された。

俺は人間にぶつかって、尻もちをついた。

「ドンマイ、気にすんな」

涼介の手が、俺に伸びる。

それをつかんだら、ちゃんとつかめた。

腕を引かれ、俺は立ち上がる。

再び動き出した9人の流れに沿って、また走り出す。

投げられたボールを受け取って、俺はシュートを決めた。

周囲から歓声があがる。

ハイタッチを求められて、片手をあげた。

それに人間の仲間が、ポンと手を合わせる。

そういえば、何かを痛めつけること以外に、それに触れたことなんて、なかったのかもしれない。

その不思議な感覚に、じっと手を見る。

「なんだよ、どうした」

涼介の腕が、俺の肩に回った。

自分の体に、これほど気安く触れられることにも、俺は慣れていない。

するりとそれが落ちていくまでの時間を、俺はゆっくりと数えている。

そのわずか数秒を、初めて大切に思った。