悪魔公爵鷲頭獅子丸の場合

チャイムが鳴った。

教室にいた生徒たちは立ち上がり、ガタガタと移動を始める。

「次は体育だぞ、着替えろ」

涼介には、俺以外にも友達がいる。

クラスの他の男子生徒数人が、涼介の周りに集まった。

そこで何かをしゃべりながら着替えているのを、俺は遠くからながめている。

「なんの話し?」

俺がそう言ったら、涼介はじっと見下ろした。

「次の、バスケの試合の話し」

「ふーん」

椅子に座ったまま、視線を外す。

俺にとって涼介は特別でも、涼介にとって俺は特別ではない。

そんなことは分かりきっていても、俺としては何としても、その特別にならなければいけない。

なぜなら、俺には契約が必要だからだ。

どうすれば、そうなれるんだろう。

「お前も早く着替えろ」

「サボる」

「試合なんだ。お前が必要なんだよ」

俺は、涼介を見上げた。

「話しが分からないのは、学校をサボりすぎているせいだ。ちゃんと来てれば、分かるんだよ」

涼介は俺のロッカーの扉を開けると、そこにあった体操服袋を投げつける。

「ほら、さっさとしろ」

こんなもの、そこに入ってたんだ。

知らなかった。

俺はもぞもぞと着替え始める。

涼介に急かされて、体育の授業が始まるまでには、ちゃんと間に合った。

知らない人間に、囲まれるのは得意ではない。

特に体育の授業では、他のクラスと合わせて、3クラスが一緒になるから、さらにやっかいだ。

しかも男ばかりで、何にも楽しくない。

俺は渡されたボールを、トントンと床につく。

ゴミクズのような、人間どもの集まりだ。

俺は本来なら、こんなところにいるような存在ではない。

俺は人間から作られた悪魔であっても、人間じゃないんだ。

一緒になんて、されたくもない。

ゴールに向かってシュートを打ったら、早く並べと怒鳴られた。

この教師という立場の人間は、どうにも俺との相性が悪い。

ギロリとにらみ返すと、俺の肩に涼介の腕が回った。

「はーい。整列しまーす」

大体からにして、全員が同じ格好をさせられていることに、納得がいかないのだ。

だけどそれは必然的に、涼介と同じ格好でもあるから、我慢している。

「放せ」

そう言うと、涼介はにっと笑って腕を外した。

「お前、俺と同じチームにしてもらったから。よろしく頼むぞ」

「それは、そういう意味だ」

「がんばれよって、コト」

それは俺に、本気を出せということか? 

よく分からないまま、涼介に連れられて、整列させられる。

何を言っているのか、全く意味の分からない教師の話が終わって、ようやく試合が始まった。