俺はここ最近にないほど、珍しくやる気に満ちていた。

「やぁ、おはよう、涼介」

朝の通学路を、俺は涼介の隣に並ぶ。

「おはよう」

俺が現れたとたんに、周囲の人間どもの注目を一斉に浴びる。

俺はそれに、にこやかに手を振った。

男女問わず、全ての人間が俺に夢中になるのは、仕方がない。

「なぁ、もしかしてそれも、獅子丸の魔力ってやつ?」

「ま、溢れ出る、隠しても隠しきれないオーラってやつかな」

「なんだよ、金持ちオーラじゃなかったってことか」

「当たり前だ。俺自身の魅力ってやつだ」

そう言うと、涼介は笑った。

「あのさ、俺も光のオーラを持ってたんじゃないの?」

「お前のとは、格が違うんだよ」

「お前は悪魔で、俺は天使のはずだったんだけど」

「じゃあ、天使とか悪魔とか、関係ないんじゃね?」

俺がそう言ったら、涼介はまた笑った。

なんだ? やっぱり人気が欲しいのか? 

だけど、「お前を人気者にしてやろう」って、それをそのまま契約の話しと結びつけても、コイツは動かない。

さすがにそれは、学習した。

さて、どうしようか。

俺は珍しく上機嫌な涼介の横顔を見上げながら、考え始める。

今日はなんだか、涼介は妙にうれしそうだ。

学校というところは、楽しいといえば楽しかった。

溢れ出る悪魔のオーラで、俺は常に周囲からちやほやされていた。

魔界ではどちらかというと、父さんの息子として怖れられることばかりで、優秀な兄さんたちと比べられることが多くて、俺の周りには、サランぐらいしかいない。

涼介の横顔を見上げる。

楽しそうに笑いながらしゃべり、俺の隣を歩くような奴だなんて、今までどこにも存在しなかった。

涼介の、脳に触れた感触の残る手を見つめる。

そこにあった記憶では、涼介は兄だった。