「さぁ」

「俺が、特殊だったから?」

もうスヱの話しで、俺の中では答えが出ていた。

だけどそれは、教えずにおく。

「なんだっけ、金の矢?」

頬を赤らめ、恥ずかしそうにそう尋ねた涼介に対して、俺は自分がどう答えるのかが正解なのかを考える。

昨日読んだ魔界における人間研究の本の一節が、頭に浮かんだ。

「そうそう! 涼介は特殊な人間だったからなぁ! 特別な人間じゃないと、こんなことって、ありえないだろ? すごいなぁ、やっぱり凄いよ、涼介は!」

「そのしゃべり方、スヱみたいだ」

外したか。

俺は心の中で、こっそりと舌打ちする。

「別に。たまたま、偶然だよ。通りかかったら、見かけて、なんとなく気になったから、降りてきただけ。別になにがどうこうってワケじゃないさ」

「本当に、偶然だったってこと?」

「そう」

「じゃあなんで、矢が刺さったとか、言ってたわけ?」

「矢が刺さったのが、偶然だったってこと」

「……。そっか」

サランが、あの矢を早く抜けと言った理由が、ようやく分かった。

俺たちのような魔界に住む上級悪魔には全く効果はないが、人間界にしがみつく低級妖魔の類いになら、この天使の祝福は、効果がある。

涼介は、聖人だ。

普通の人間の魂とは、その価値は比べものにならない。

聖人を悪に陥れ、その魂を数多く集めることができれば、その集めた魂の数だけ、悪魔のステータスになる。

「その矢は誰が?」

「俺の父さんが放った」

「父さん?」

「悪魔公爵だ」

「本当に、それはたまたまだったのかな」

「もちろん。気まぐれな、悪魔のいたずらだ」

父さんの放った矢に、間違いはなかった。

偉大な悪魔の行いには、何の間違いも無駄もない。

父さんはこの俺に、聖人の魂をとってこいと言っている。

「だからまぁ、そんな気むずかしく考えるなよ。気楽に行こうぜ」

俺が笑ってみせたら、涼介はわずかにほほえんだ。

どうりで厄介なはずだ。

そしてコイツが本当に聖人であるのならば、まもなくアイツらもやってくる。