「まるで夢のようで、だけど本当にあった出来事みたいな気がして、それを思い出すたびに、俺はいつも……」

「獅子丸さまはぁあ、早く帰りたいみたいですぅぅ」

「俺だって、早く帰りたいんだ!」

涼介は叫んだ。

「だから、その光って、なに?」

スヱは首をかしげる。

「ご自分で、覚えてらっしゃらないんですかぁ?」

「覚えてない。覚えてないから、教えてほしいと頼んでいる」

「あらぁ、それは残念ですねぇ。あたしたち、あなたのその光のおかげで、とっても迷惑してるんですぅう」

スヱのその言葉に、俺はハッと顔をあげた。

「涼介さん、天使の祝福を受けてますぅぅ。その光のオーラに守られてるから、この辺りにいた下級妖魔は、みんな引っ越しちゃいましたぁ」

俺は涼介を振り返った。

その額に手をあてようとして、俺の手は涼介の頭をすり抜ける。

「うわっ! なんだよ、びっくりした!」

それに驚いた涼介は、俺の手を振り払った。

叩かれた腕は、涼介の手に押されて横に流れる。

しまった。

俺が人間に触れられないことが、バレた。

「あはは、人間は本当に無知でお馬鹿さんですねぇぇえ。妖魔が人間に触れられないのって、常識じゃないですかぁあ」

そう言ってスヱは、涼介の体に手を伸ばした。

その腕をブンブンと左右に振り回しても、透過するばかりで、スヱは涼介に触れることは出来ない。

「だから悪魔や妖怪は、言葉巧みに人間を誘惑するんですぅ。そうやって自分から、悪の道に堕ちてもらうんですぅぅぅ」

スヱはそこにあったストローの袋を念力で丸めると、涼介に向かって投げつけた。

「痛てっ」

それは涼介の頬に当たって、はね返る。

「まぁでもぉ、直接触れられなくっても、あんま関係ないんですけどねぇぇ。間接攻撃なら、物理も有効ですからぁあ」