「帰れ」

「サインしてくれれば帰る」

そうやって、じっとにらまれるように見下ろされても、動じるような俺ではない。

「俺と契約すれば、お前の望みは何でも叶う。なんなら寿命だって、半年くらいなら伸ばせる」

「半年……」

「そう。で、全てが思い通りだ。何でも叶えてやるぞ」

涼介は、ふっと視線を横に外した。

「で、その代償はどうなるんだ?」

は? コイツ、単なるバカではないようだ。

「別に。死んだら魂が地獄に落ちるというだけだ。落ちる魂の数だけ、魔界の力が増強される。いわば……、そうだな、人間界における太陽エネルギーを集めているようなものなんだ」

涼介は眉間にしわを寄せ、顔を上げた。

「太陽エネルギー、なんだそれ」

「魔界の、俺たち悪魔の力の糧となる」

彼は難しい顔をして首をひねった。

何を考えることがある。

「どうせ死んだら、人間はお終いだ。魂が天国に行こうと地獄に行こうと、肉体も精神も奪われているから、関係ない。何の苦痛もなければ、意思もない。要するに、死後それがどうなろうと、お前は全くの無関係ということだ。だったら生きている間に、この人間界で自由を謳歌し、思い通りに生きた方がよくないか?」

「まぁ、それはそうなんだけどな」

「お前は俺に命令して、何でも望みを叶えてもらう。寿命がきて死んだら、俺は生前、お前の望みを叶えてやったお礼として、魂をもらう。お前にかかる負担は何もない。ノーリスクハイリターンだ。迷うことなど、何もないだろう」

「なんか、よくある悪徳商法みたいな宣伝文句じゃねぇか」

「悪魔だからな。当たり前だ」

「だったら、やっぱ何か騙そうとしてるんじゃねぇか?」

「悪魔の契約を、下衆な人間どもと一緒にするな」

「悪魔なんだろ?」

「悪魔だよ」

「じゃ、いいです。お引き取りください」

「なんでだよ!」

突き返された未契約の書類を、俺はそう簡単に受け取るわけにはいかない。