女の名前は、スヱといった。

今から350年くらい前に、盗みを働いて村を追われたらしい。

捕らえられた村人から激しい断罪を受けたうえに、傷だらけのままそこから逃げだし、沼に足を取られてこの世を恨みながら絶命したそうだ。

まぁ、よくあるパターンだ。

「で、スヱさんは、俺の何がそんなにダメだったの? 俺の光ってなに?」

スヱは店の入り口でありえないほどの食料を大量注文し、それに一心不乱にむしゃぶりついている。

俺は跳ね飛んできた、細長い芋を揚げて塩をかけただけのものを、床に投げ捨てる。

「えぇえ! なんですかぁあ! いまちょっと、忙しいんですけどぉぉお!」

その大きな声に、周囲の人間は驚き振り返る。

「もう少し小さな声で話せ。あと、そのしゃべり方を何とかしろ」

俺がそう言うと、スヱは紙コップに入った炭酸入りの甘い液体を吸った。

「はい。じゃあ、そうします」

ため息が出る。

涼介はそんなスヱに向かって、身を乗り出した。

「で、俺の光って、なに?」

涼介がこんなくだらない女に興味を持つとは思わなかった。

やっぱり、もっと妖艶で美しい女の姿で現れればよかった。

俺は涼介のその変わりように、ため息をつく。

コイツには、色仕掛けが有効だったか。

「獅子丸さまぁ、どうかしたんですかぁあ?」

「俺も最初から、女になっとけばよかったなって」

「なんで獅子丸が女になるんだよ」

「お前だって、女に誘惑された方が楽しかっただろ?」

「いまは、そんな話しじゃないだろ!」

涼介は、ドカンとテーブルを打ち付けてから、スヱに向き直る。

何をそんなに本気になっているのやら。

呆れてため息をつく。

「ずっと、不思議な夢のことが、忘れられないんだ。そのことばかりを考えてる。見たのは、たったの1回だけで、ずっと前のことで、だけど忘れられなくて、それは……、なんていうのか、光、光の玉だったんだ」

知るかよ、そんなこと。

それと父さんから与えられた俺の課題との間に、どんな関係があるっていうんだ。

油と砂糖と塩でベトベトのテーブルがどうにも気持ち悪くて、俺はどうでもいいから、早く帰りたい。