「じゃ、じゃあ、髪の毛」

ぶちっと抜いたら、2本が抜けた。

それを投げてやると、妖魔の体は引きずった泥を再びまとい、ようやく人間の姿になる。

「あぁぁあ、ありがとうございますぅぅぅ! 髪の毛なら、長持ちしますぅう!」

泥の中から、この学校の制服を着た女が立ち上がった。

腰まで真っ直ぐに伸びた黒髪に、肌は泥のようにくすんだ灰色をしている。

「あぁあぁぁ! 魔界の王子さま、お目にかかれて光栄ですぅうぅっ!」

女は廊下に土下座でひれ伏した。

「あの、あの、なにかお役に立てることがあればとぉぉ、失礼とは思いながらも、はせ参じてみましたぁぁあ!」

「もういい、分かった。髪の毛2本で十分だろ。帰れ」

「はいぃ!」

「待って!」

涼介は、女を呼び止める。

その足を、一歩踏み出した。

それは、わずかに震えているようにも見えた。

「俺の、俺の光って、なに? どういうこと?」

妖魔は俺の顔色を窺うように、目を合わせる。

「話しが聞きたい。獅子丸」

涼介まで、俺を振り返る。

「お前が悪魔っていうのは、本当だったんだな」

俺は落胆と同時に、深いため息をつく。

なんだよ、まだそこからだったのかよ。

「そうだよ。やっと信じてくれた?」

「だったら、この、人? を、説得してくれ。光の、光の話しがしたい」

涼介は、じっとこの地縛霊である低級妖魔を見つめている。

こんな奴に、一体なんの興味があるっていうんだ。

「え、面倒くさい」

「獅子丸!」

「あぁ、分かったよ、仕方ない。涼介の言う通りにしてやれ」

悪魔の類いを扱うには、こんな低級妖怪といえども、人間には難しい。

俺たちは、学校近くのバーガーショップに移動した。