俺の命令に従って、男は涼介の首に腕を回した。

今度ばかりはうまくいく。

ヘッドロックで固めた涼介の頭頂部を、山下は俺に差し出した。

「ほら、押さえ込んだぞ」

暴れたおす涼介を押さえ込むのに苦労していたが、問題はそこじゃない。

「そうじゃない、向きが違うだろ」

「向き?」

「後ろだ、後ろ!」

涼介が暴れるお陰で、矢はさらに深く食い込んでいる。

もう、本当に気が利かない。

「後ろって、どう後ろ向けんだよ!」

「頭の後ろ!」

「はぁ?」

男が腕を緩めた瞬間、涼介はそこから抜け出した。

「俺の後頭部がなんなんだよ!」

「こいつを押さえつけろ!」

「お前が素直に言うことを聞け!」

その言葉に、俺は立ち止まった。

「どういうことだ」

「これが俺とお前の問題なんだったら、先輩を巻き込むな」

「後ろを向け」

「足が動かない」

俺は魔法を解く。

動けるようになった涼介は、舌打ちの後で意外にも素直に後ろを向いた。

なんだよ、なんで今、俺の言うとおりにした?

「このバカがなんか余計なことをしそうになったら、すぐに教えて下さいよ!」

ようやく矢の刺さった頭が、俺の前に差し出された。

そこにそっと手を伸ばすと、俺の手は涼介の後頭部を透過する。

「えっ? ちょっ、……なに?」

それを横でみていた男は、変な声をあげた。

「え? なに? 山下さん、コイツ何してんの?」

「いいから黙ってろ。ヘンに動くな」

俺は涼介の頭部に手を突っ込むと、ゆっくりとその矢を引き抜く。

「これでいい」

抜いた父さんの矢は、すぐに粉砕しておく。

こんな魔力の強い矢を人間界に放置しておけば、どんな面倒が起きるか分からない。

「お、お前、何者だ!」

カネで簡単に操れるような人間に、名乗る名前などない。

俺は涼介に向き直った。

「今日のところは、これでお終いにしておいてやる。俺から逃れられると思うなよ」

涼介と目が合う。

俺は、今度はその顔を直視することが出来なかった。

「テメー、おいコラ、ちょっと待て、話しが終わってねーぞ!」

俺は背を向けると、その場から姿を消した。