「山手台高校2年A組、樋口涼介か」

「勝手に人の物を見るな!」

「悪魔にそんな倫理観を求める方が、間違っているとは思わないか?」

俺は能力を使って、部屋中をひっくり返した。

漫画雑誌に参考書、性癖も趣味も、特に変わったことはない、ごくごく普通の平凡な男子高校生だ。

楽勝だな。

涼介は一瞬にして散らかされた部屋を見て、慌てたようだった。

「やめろ! どうしてそんなことをするんだ!」

「じゃあ、それにサインしてもらおうか」

俺は、机に置かれた契約書をもう一度指差した。

「お前は俺と契約し、何でも望みを叶えてもらう。俺はお前が死んだら、魂をもらう」

「魂をもらう?」

「そうだ」

「なんだよそれ、俺はもうすぐ、死ぬってこと?」

「いや、寿命に関する情報は、重要な個人情報にあたるので、いくら悪魔といえども、そう簡単には手に入らない」

「悪魔、個人情報」

「天界の奴らが管理してる。その情報が流出すれば、もうすぐ死ぬと分かってる奴を洗い出せるからな。手早く簡単に魂集めができるんだ」

「魂集め」

涼介は視線を契約書に戻した。

「悪い話しではないだろう。俺と契約を交わしたところで、お前は何の不自由もなく生活できる。いつ来るか分からない命日まで、全てが思い通りだ。なんなら、寿命だって半年くらいなら伸ばすこともできる」

涼介はため息をついて、腕組みした。

「お前、頭おかしいんじゃないか? どこぶつけた」

「おかしくはない。あまり慣れたような口をきくな」

「ひとんちにいきなり入ってきて、それはないだろう」

涼介の態度に、俺は口をつぐんだ。

魔界では俺に対して、こんな口のきき方をするような奴はいない。

「靴。まず靴を脱げ」

そう言われたので、素直に靴を脱ぐ。

「これはどうしたらいいんだ?」

「外に置く!」

俺は脱いだ靴を、二階の窓から屋根の上に置いた。

「これでいいのか? じゃ、契約してくれ」

「やだね」

立ち上がってみたら、結構背が高い。

しまった。

もうちょっと俺の身長を、高めに設定しておけばよかった。