学校の中というのは、どうでもいいくだらない人間であふれていて、悪魔の俺にとっても、居心地がいいのか悪いのかが分からない。

俺は教室で一人本を読む、涼介の前に陣取った。

「やぁ。何の本を読んでるんだ?」

「……お前も本に、興味があるのか?」

「ないね」

俺はそれを取り上げると、放り投げた。

「なに? 返してほしけりゃ契約しろって?」

「いや、違う」

俺は涼介にかけられた、呪いの痕跡を探した。

確かにそれはかけられているはずなのに、どうして作用しないのか。

父さんの矢の効力の方が、強すぎるせい?

「ちょっと、後ろ向いて」

「は?」

そう言うと涼介は、俺の方を向いたまま、体を後ろに引いた。

それでは、矢が抜けない。

「反対だよ、後ろ向けって」

「やだよ。何する気だ」

「ゴミがついてる」

そうやって手を伸ばそうとしたのに、涼介はそれを押しのけ、自分の髪を振り払った。

「自分で取るから、いいよ」

そうやって触れた手が、矢をますます深く押し込める。

面倒くさいやつだ。

どうやって引き抜こう。

俺がイライラしなから涼介を見ていると、彼はぼそりとつぶやいた。

「てゆーか、お前何しに戻って来た。俺はまだ足の小指、一回もぶつけてないぞ」

その言葉に、カチンと血が上る。

「創作魔法というのだ。そういうおまじない的な魔法は、いちいち材料を集めたうえで適切に処理し、そのうえでさらに儀式としての手順を踏まなくてはならない」

「なんだそれ」

「そういうものなんだよ」

「で?」

涼介の目は、悪魔のように冷ややかに微笑んだ。

「出来ないって?」

「出来ないんじゃない、面倒くさいだけだ」

涼介は返事の代わりに、「ふんっ!」盛大な鼻息を飛ばす。

「だからもういいって。悪魔ごっこがしたいだけなんだろ? つき合ってやるから、お前も早くその病気を治せ」

「病気?」

「妄想癖だよ。どうせアラブの豪邸で見た、日本のアニメかなんかに影響されちゃったんだろ?」

「アニメじゃない!」

「なに、どの作品みたの? 俺が知ってるやつ?」

涼介は立ち上がると、俺の投げ捨てた本を拾い上げた。

「ホント、うっとうしいんだけど、まぁ勘弁してやるよ。お前、友達いなさそうだし」

「友達?」

「え、いるの?」

俺は首を横にふる。

友達って、なんだ。

後で調べよう。