「ふむ。この人間ですか、ウァプラさまの矢が刺さったのは」

サランの目が、じっと水晶の中の涼介を見つめる。

「なるほど。刺さっていますね」

「だろ?」

あの父さんの選んだ人間だ。

そう簡単に、一筋縄ではいかないということなんだろう。

「あまり私のようなものが口だしをすると、あの方のご機嫌を損ねるので、申し上げにくいのですが」

「なんだ」

サランはそっと微笑む。

「獅子丸さまがご苦労なさっていることは、ウァプラさまには内密にしておいてさしあげます」

「……本当だな」

「はい」

俺は疑いの目でサランを見上げる。

悪魔にとって裏切りなど挨拶のようなものだが、今は相談できる相手が他にいない。

小指の呪い、どうしよう。

「俺のかけた呪いが、効かないようなのだ」

「先ずは、頭に刺さったままの矢を抜きましょう。人間の目には見えぬものですが、あのように分かりやすい目印があれば、よからぬ連中もまた、呼び寄せるかもしれません」

涼介の後頭部には、確かに金の矢が刺さったままだ。

よからぬ連中? 

俺の頭にすぐに思い浮かぶのは、あの厄介な四人の兄たちだけだ。

「あの矢を抜けば、なにかが変わるのか?」

「さぁ。どうでしょう」

サランは分かっているような、分かっていないような口を利く。

「先ずは、あの矢を抜くことを一番にお考えなさいませ」

サランはティーセットをテーブルに残し、部屋を出ていく。

俺はため息をついた。

あの矢を抜く、か。

口で言うのはたやすいが、その手間を考えると、俺はその面倒くささにうんざりとして、もう一度ため息をついた。