そう言って奴に呪いをかけたはずだったが、涼介から一向に悲鳴が上がってこないどころか、俺の呪いが効いている兆しもない。

どういうことだ?

「どうかされましたか? 熱心に、何をしておいでです?」

サランが声をかけてきた。

魔界の屋敷にある図書室で、俺は人間の足に、その小指を角にぶつける呪いのかけ方を探して、魔法書を広げ散らかしている。

「見るな!」

慌ててページの上に覆い被さった。

「おやおや、お勉強ですか?」

サランは俺が生まれた時から、専属で世話をしている火トカゲだ。

俺の言うことならなんでも聞くが、俺と父さんとなると、簡単に親父側につく。

今は人間の姿になっている俺に合わせて、サランも初老の男風な人間に姿を変えていた。

「人間に呪いをかける時は、魔界とは違って、慎重に呪文を唱えなければなりません。思いつきでいくつもの呪いを同時にかけても、上手くはいきませんよ」

紅茶のソーサーを手に、ゆっくりと笑ったサランは、それをテーブルに置いた。

「一つの呪いを、その効果をみながらゆっくりと、徐々に強い呪いにレベルを上げながら、長い時間をかけ締め上げるのが、効果的でございます」

そんなことは言われなくても分かっているが、涼介のことをサランに相談するということは、父さんにも筒抜けということだ。

こんなくだらない魔法、もちろん俺も知らないが、父さんやサランに聞くなんてことも、絶対にありえない。

「こ、これから人間界で、人間に呪いをかけてやろうと思っているんだ。誘惑には簡単に乗らないような奴らしくて、どうやって陥れようか、それを考えてるんだ」

サランは遠見の水晶に手をかざした。

そこに登校中の涼介の姿が映る。