「それか、靴下の左だけがなくなる呪いとかでもいいよ。どっちかね」

涼介は歩き出す。

「それが出来れば、信じてやるよ」

「そ、そんなくだらない魔法なんて、あるわけないだろう!」

「そうか。何でも出来るって言ったのは、やっぱり嘘か」

俺は涼介の背中に向かって、歯ぎしりする。

そんな低級妖魔のイタズラのような魔法なんか、どうして俺が修得する必要がある?

そんなのは呪いなんかじゃない、ましてや、魔法でもない。

俺に覚える必要など、全くないものだ。

大悪魔公爵の息子だぞ、俺は!

「お前と悪魔の契約とやらを交わすまで、毎日3回足の小指を角にぶつけるとか。できるもんならやってみろよ、バーカ」

くっそぉっ! 

誰がそんな呪い、わざわざ人間なんかにかけるかっつーの! 

俺の呪いは、もっと盛大かつ極悪なんだよ!

「分かったよ、やってやる!」

ぶつぶつと呪文を唱え始めた俺に向かって、涼介は「キモ」と言った。

キモとはなんだ。

肝臓のことか。

五臓六腑の五臓のうちの一つだ。

大切なものという意味もある。

それが涼介にとって本当に大切なものならば、俺は本気で足の小指を毎日3回ぶつける呪いをかけてやろう。

立ち去る涼介の背中を見ながら、俺はその場から姿を消した。