「いつでもいいぞ。俺と契約を交わしたくなったら、すぐに呼んでくれ」

「ホントにさぁ、ふざけんなよ、お前」

立ち去ろうとした俺を、涼介はくるりと振り返った。

「何が目的だ。アラブの大富豪の第三婦人の息子とか、分かりやすいキャラ設定で来やがって。こんな金ばらまいて、イヤミかよ」

涼介の足は、悪魔の呪いのかかった紙幣を踏みつけた。

「俺をおもちゃにして遊ぶくらいなら、他所でやれって言ってんだよ。アホか」

「嘘じゃない、本当だ。俺はお前をおもちゃにしようとか思ってないし、俺だって遊びで来てるわけじゃない」

「なら、なんで俺なんだ。まずはそこから説明しろ」

俺はぐっと口をつぐんだ。

理由は簡単だが、それを涼介に正直に伝えることが、いいのか悪いのかが判断できない。

涼介は足元に散らばる札束を蹴り上げた。

「どこの大富豪のお坊ちゃんだかなんだか知らねぇが、中二病ごっこなら、他でやれって言ってんだよ。これ以上俺にまとわりついたら、本気で殴るぞ」

涼介の手が伸び、俺の胸ぐらをつかむ。

俺は生まれて初めての経験に、どうしていいのか分からなくなる。

「あ、頭に、矢が刺さっているからだ」

「は?」

「お前の頭に、俺の課題対象となる人間を示す、金の矢が刺さってるんだ」

涼介は自分の頭を両手でまさぐった。

そんなことで、その矢が抜けるはずもない。

「どこに」

「人間には見えない」

涼介は、盛大なため息をついた。

「どうせなら、もう少しマシなウソつけよ」

「だから、ウソじゃないって、本当だ」

「つーか、課題対象って何だよ」

涼介の全く俺の話しを信用していない、疑り深く薄く開いた目は、俺を観察する。

「じゃあ言うけど、お前は今、呪いを俺にかけたんだろ?」

「かけた」

「そうか。じゃあ俺がここから自分ちに帰るまでに、一回でも転んだら……、いや、角を曲がる度につまずいたら、お前が悪魔だって信じてやる」

は? なんだよそれ!

「お、俺の呪いのレベルは、そんなもんじゃないんだって!」

「へー」

全く信用していない目つきだ。

人間が角を曲がる度につまずく呪い? 

そんなもん、知るか。