俺は、魂の抜けた涼介の亡骸を見下ろした。
そこへ下り立つと、手を伸ばす。
今なら俺は、好きなだけ涼介に触れることが出来る。
指先でこめかみに触れ、それを頬に滑らせた。
俺は涼介のまぶたをそっとなでると、もう動かなくなった体を抱き上げる。
お前の体は、俺があの霊園の、弟の隣に葬ってやる。
絶対に、だ。
それだけは、誰にも邪魔させない。
それまでは、誰にもこの体を傷つけさせたりなんか、しない。
仲のいい兄弟同士だったじゃないか。
血のつながりはなくとも、お前らは本物の、兄弟だったよ。
俺はその体を両腕に抱えたまま、夕焼けの照らす校舎の階段を、一段一段、ゆっくりと下りていった。
魔界の大樹にもたれて、その木陰からぼんやりと庭をながめていた。
空は普通に機嫌良く晴れていて、時折そよ風が木の葉を揺らす。
どのくらいここに座っていたのだろう。
じっと揺れる木々の葉先を、ただ見ていれば、それだけでよかった。
「すぐに死ぬ、簡単そうな奴を選んでやったのに……」
強い風が一つ吹いて、木々がざわめいた。
父さんは影のなかに、その姿を現す。
「それでも失敗するとは、なさけない奴め」
背中から聞こえる声に、俺は少しうつむく。
「涼介は、強かったよ。とても強くて、俺はその強さに負けた」
そうやって、父さんにも素直に言えるようになったのは、涼介のおかげ。
「あんな強い人間がいるなんて、知らなかった。強さって、色んな種類があるんだ」
雲が流れている。
地上ではさほど強くない風でも、きっと上空では吹き荒れているのだろう。
ここは静かで、穏やかで、何もないところだけど、世界はとてつもなく、広い。
「もう一度、選んでやろう」
父さんの手に、金の弓が見えた。
それに黄金の矢をつがえると、天高く掲げる。
シュンと音をたて、矢は放たれた。
俺はその飛び去っていく、行く末を見送る。
「次はうまくやれ」
もう一度強く風が吹いた。
俺は空へと、飛び上がった。
『完』
そこへ下り立つと、手を伸ばす。
今なら俺は、好きなだけ涼介に触れることが出来る。
指先でこめかみに触れ、それを頬に滑らせた。
俺は涼介のまぶたをそっとなでると、もう動かなくなった体を抱き上げる。
お前の体は、俺があの霊園の、弟の隣に葬ってやる。
絶対に、だ。
それだけは、誰にも邪魔させない。
それまでは、誰にもこの体を傷つけさせたりなんか、しない。
仲のいい兄弟同士だったじゃないか。
血のつながりはなくとも、お前らは本物の、兄弟だったよ。
俺はその体を両腕に抱えたまま、夕焼けの照らす校舎の階段を、一段一段、ゆっくりと下りていった。
魔界の大樹にもたれて、その木陰からぼんやりと庭をながめていた。
空は普通に機嫌良く晴れていて、時折そよ風が木の葉を揺らす。
どのくらいここに座っていたのだろう。
じっと揺れる木々の葉先を、ただ見ていれば、それだけでよかった。
「すぐに死ぬ、簡単そうな奴を選んでやったのに……」
強い風が一つ吹いて、木々がざわめいた。
父さんは影のなかに、その姿を現す。
「それでも失敗するとは、なさけない奴め」
背中から聞こえる声に、俺は少しうつむく。
「涼介は、強かったよ。とても強くて、俺はその強さに負けた」
そうやって、父さんにも素直に言えるようになったのは、涼介のおかげ。
「あんな強い人間がいるなんて、知らなかった。強さって、色んな種類があるんだ」
雲が流れている。
地上ではさほど強くない風でも、きっと上空では吹き荒れているのだろう。
ここは静かで、穏やかで、何もないところだけど、世界はとてつもなく、広い。
「もう一度、選んでやろう」
父さんの手に、金の弓が見えた。
それに黄金の矢をつがえると、天高く掲げる。
シュンと音をたて、矢は放たれた。
俺はその飛び去っていく、行く末を見送る。
「次はうまくやれ」
もう一度強く風が吹いた。
俺は空へと、飛び上がった。
『完』