それでも彼は、平穏を望み、自分と向き合い、再び自分を押し殺して、言い聞かせ、何もかもをあきらめ、捨て去り、納得し、飲み込んだ。

「涼介の願いは、本当に天界で叶えられるのか?」

「それは、涼介自身にかかっている。誰がどうこう出来る問題ではない」

その涼介の魂は、自らの意志で天に昇っていくようだった。

『贖罪』という言葉が、胸をよぎる。涼介の放つ温かな光が、俺の手の中で渦をまく。

俺は、その手を下ろした。

「……。涼介を、頼む」

アズラーイールが、剣を鞘に収めた。

両の手の平で、それを大切に包み込む。

「お前の期待は、裏切らないようにしよう」

アズラーイールは、天界へ向かって飛び立った。

それは光の矢となって、やがて虚空に消える。

涼介は、天界へと向かった。

もう決して、手は届かない。

俺はいまだこの地上の空に群がる、天使と悪魔どもを見下ろした。

「お前ら、邪魔だ! いい加減にしろ!」

炎の剣を、最大限にまで引き延ばす。

俺はそれを、涼介の魂に群がるハエどもに向かって振り回した。

驚き、慌てふためいて逃げ惑う連中を、俺は追い回し、完全にその姿が見えなくなるまで、どこまでも斬りつける。

涼介は、天界でどんなふうに生まれ変わるんだろう。

姿、かたちは? 歳は? 

俺の記憶は、なくしてしまうのか。

一緒に過ごした日々と、その思い出も共に。

今度は最初から、敵対する者同士として。

下級のザコどもは、恐れをなし、全てが姿を消した。

ようやく重く垂れ込めていた雲は途切れ、沈む太陽を覗かせる。

真っ赤に照らされるその街並みに、俺はようやく、暴れまわるのをやめた。

この世界は一つなんだと言った、天使の言葉を思い出す。