「獅子丸、思い出せ。涼介の本当の願いはなんだ?」

「うるさい、俺は俺の願いを叶えるために、ここにいる!」

アズラーイールを押し返す。

魂だけになった涼介は、静かに天に昇る。

俺は、天使に最後の一撃を加え、黙らせた。

肩を斬られたアズラーイールは、その場にうずくまる。

涼介の魂を、それをつかもうとして、俺は、手を止めた。

「答えろ、アズラーイール!」

俺の手の中で、ゆっくりと涼介の魂は、天上へと向かう。

「本当に天界で、聖人となるのか!」

「その魂の形状を見ても、分からないのか」

「涼介は、天使に生まれ変わるんだろうな!」

「そうだ。下級の使徒となり、我らに仕えることとなる」

「それが、涼介の本当の望みか?」

「それはお前が一番よく、知っているはずだ」

手に触れた、涼介の記憶。

彼の両親は、彼を捨てて家を出た。

涼介はずっと、あの家で一人で暮らしてきた。

誰にも相手にされず、誰からも気にかけられず、ひっそりと静かに、息を殺して生きていた。

弟に対する怒りと憎しみと罪悪感と、母親に対する失望とあきらめと虚無と、父親に対する理解と絶望と嫌悪と。

この世の全てを呪い、憎み、怒りを押し殺し、その欲望を抱いたままで、誰よりもそんな自分自身を、一番に見下し、嫌った。

涼介は、そんな奴だった。