「いつやられたんだ」

「剣を折られた時に、その衝撃で」

折られた天界の剣の先が、黒ずんだコンクリートの上に転がっている。

「カマエルさまからお借りした剣だったのに」

「クソ天使の仲間は、やっぱりクソだな」

ふいに、腹の下に激痛が走った。

兄さんに服だけ斬られたと思っていた腕が、真っ赤に腫れ上がっていた。

その打撲のような跡は、肌の一部をどす黒く変色させている。

胃の中から血の味がして、俺はそれを吐いた。

「お前も結構なダメージを受けているじゃないか」

めまいがして、俺は両手を床につく。

「治してやろう」

近寄るアズラーイールの腕を、俺は振り払った。

「お前の治癒など、不吉だ。俺に触るな」

体が重い。

吐き気がする。

俺は一度、あの兄たちに殺されかけた。

その時に俺を助けたのは、なぜか父さんだった。

襲いかかる兄たちを前に、一振りの波動で黙らせた。

四匹の黒犬をにらみつけ、すぐにどこかへと姿を消した。

たった一度きりの、一瞬の、それだけのことだった。

それ以来、俺には最愛の息子という称号がついた。

あの父さんが、誰かをかばうということなど、ないのだという。

「俺は、絶対に聖人の魂を、持ち帰らないといけないんだよ!」

涼介に目をやる。

聖なる魂を持つ人間は、その寿命を終えようとしていた。