悪魔公爵鷲頭獅子丸の場合

「我が家の恥め」

「どうする? やっちゃう?」

「待て、あそこに聖人もどきがいるぞ」

「父さんの矢の跡だ」

一匹の黒犬が、むき出しの牙で俺を襲う。

それは制服の袖を切り裂いただけで、俺の肌には、直接触れない。

「ぎゃはは、あいつ、やっぱびびってんぞ」

「やめろよ。それで前に叱られたんだ」

「バレなきゃいいだろ」

「サランが見てる」

アズラーイールは、その手にあった聖剣を、真横に構えた。

「ほら、あいつが魔界に連れ込んだ人間だ」

「あぁ、キツネの噂か」

「あいつら、嘘じゃなかったな」

「なんだよ、不味いもん喰わされただけか」

四つの笑いが、空に響く。

その声はこだまし、さらに魔界の瘴気を呼び寄せる。

「悪魔どもめ、このまま好き勝手にはさせん」

兄さんたちは、せわしなく空を駆け回っている。

アズラーイールの振り下ろした剣は、それにかすりもしない。

「なんだよ、あいつ、もしかして死んでんのか?」

「ぎゃはははは」

「あーあ、意味分かんね」

「あの人間の身代わりのつもりだ。頭が悪すぎる」

『左耳』の兄は、俺を見てあざ笑う。

「あいつの魂を見てみろよ。まだ半分が腐ってやがる」

「前からずっとだ。出来損ないめ」

「天使がいるよ」

「聖人の魂を奪うように、父さんから言われたんだ」

一匹の犬が、アズラーイールに向かった。

その牙が、天使の腕を切り裂く。

アズラーイールは、片膝をついた。