「おや、やっぱりあいつだよ」

「本当だ。なにやってんだ?」

「天使もいるみたいだぞ」

「なんだよ、だっせーな」

四匹の、漆黒の毛並みを持つ大きな犬が、そこから飛び出した。

空中をせわしなく駆け回りながら、その圧倒的な存在感で、周囲の空気を魔界のそれに変えていく。

脚元からは暗黒の瘴気が沸き立ち、吐く息は闇をまとい、その姿を見た者の生気を奪う。

辺りは完全に、魔界の一部と化した。

「これが、お前のすぐ上の兄たちか」

アズラーイールが、息を飲む。

「三千世界のうちの一つを滅ぼし、天界の剣に裂かれてもなお、ウァプラの力で蘇った魔犬」

その兄さんの、瘴気をまとった眼が、俺たちを見下ろす。

「天使が何か言ってるよ」

「誰だあいつ」

「あぁ、アズラーイールだ」

「なんでここにいる?」

一匹の犬が、俺とそっくりな人間の姿に、形を変えた。

「こんな感じ?」

「あはは、よくできてるじゃないか」

「あそこにいるのは、誰だ?」

「邪魔だな」

スヱは両腕を掲げ、災悪の源である兄たちに誓った。

「悪魔公爵ウァプラの第二の息子であり、偉大な悪魔である四兄弟よ。どうか私をあなた方の従属としてお迎えください。その忠誠の証として、ここにいる天使と第三の息子を、生け贄として捧げます」

人間に姿を変えた兄は、再び本来の姿に形を戻した。

その一匹の巨大な犬が、スヱに噛みつく。

その一撃で、スヱの体は砂と化し宙に飛散した。

「うわっ、くっせ」

ぺっぺと唾を吐く兄さんを見て、他の三匹の犬は笑った。

「こいつは、こんな泥人形で遊んでたのか?」

「おもちゃを壊したんだ、また父さんに叱られるぞ」

「あいつ、すぐ泣くからな」

不気味な四つの笑い声が、空に響く。

俺は体を動かせないままでいた。