「焼き尽くせ、我が名の下に、全てを灰と化せ!」

巨大ムカデが襲ってくる。

それはその刃先を、腹を覆う殻の間に突き立てた。

スヱが空を舞う動きに合わせて、炎の刃がムカデの腹を切り裂く。

悲鳴が大気を奮わせた。

全身を炎に覆われた巨大なムカデが、燃え尽きて地に落ちる。

その炎の中から、女は立ち上がった。

「おのれ、このクソガキが!」

俺の喉元を狙って伸びた触手のような泥を、アズラーイールの剣が切り落とした。

俺の目の前で、それはべちゃりと地に落ちる。

スヱの体が、ゆっくりと宙に浮かんだ。

「私の受けた屈辱と、積年の恨みを思い知るがいい!」

スヱは汚泥をまき散らした。

その泥が足に絡みつき、動きを封じ込められる。

「お前らのように、ぬくぬくと育ったような輩に、私の苦しみが分かってたまるか。私の願いは、今こそ完結する。あの沼から抜け出し、この世を制覇するのだ!」

足元から巻き付いた泥が、体を締め付ける。

それを振り払うだけの力は、俺に残っていなかった。

アズラーイールの剣も、役に立たない。

「先ずはお前から喰ってやろう。悪魔公爵ウァプラの息子よ。我が糧となり、力となるがよい」

スヱの口が、大きく裂けた。

毒息が吹きかかる。

鮫のように乱立した鋭い牙が、その口に並んでいるのが見えた。

そのスヱの向こうに、魔界のゲートが現れる。

それは、普通のゲートなんかじゃない。

幾重もの強力な魔法によって作られた、特別な者だけが通過することのできる、地獄の門。

その紋章に、俺は身震いする。

漆黒の闇を切り裂いて現れたそのゲートは、魔界の最下層に繋がっていた。

それを見上げるだけで、全身が凍りつくような恐怖と不安が襲う。

魔界の、真の魔力を持つ者によってのみ作られるゲートだ。