ツンとした血の臭いが風に乗って漂う。

この近くに、死の影がある。

涼介は道ばたに転がった、猫の死体を見つけた。

「本当に何もかも思うがままなら、いますぐこの猫を生き返らせてみろよ。それが出来るのなら、契約してやってもいい」

涼介の視線が、静かに横に流れた。

俺は軽く舌打ちをする。

「悪魔にでも、出来ないことはある。過去と、生死を動かすことだ」

いま車に轢かれたばかりなのか、飛び出した内蔵は、まだヒクヒクと脈打っていた。

「だけど、なにも心配することはない。今を変えれば、過去も変わる。今を新しくすれば、未来にも新しい展望は開ける。お前の過去を変えたいと思うのなら、今を華々しく変化させてやろう」

涼介はじっと俺を見下ろす。

「やっぱ悪魔なんて、つまんねーな」

再び俺を無視して、歩き始めた。

「何でも望みが叶うなんて、嘘じゃないか。もうお前の言うことなんて、俺は何も信じない」

通り過ぎようとする涼介と、俺の強く肩が強くぶつかった。

涼介は俺をにらみつけると、チッと舌打ちをする。

この俺に喧嘩を売ろうとは、いい度胸だ。

「お前の望みは、間違いなく全部叶えてやる。だから俺と契約しろ」

「やだね」

立ち止まろうともしないその背中に、呪いをかけてやろうじゃないか。

悪魔を無視すると、どういうことになるのか、この俺が教えてやろう。

「いいだろう。今からお前に、7つの災いが起こるよう呪いをかけてやる。その呪縛から逃れる方法は、たった一つ。俺と契約を交わすことだ。すぐにでもお前は自分から俺に懇願し、ひざまずき、契約させてくれと泣き叫ぶようになるだろう」

俺は俺の思いつく限りの災悪を、涼介の身に降りそそいだ。

7つの死に至る罪だ。

高慢、物欲、嫉妬、怒り、色欲、貪食、怠惰。

人間を罪に導き、7つの罪源とも言われる罪悪。

それらに捕らわれ、思う存分苦しむがいい。

そこから救われたくば、悪魔の力で、その望みの全てを叶えよう。

そうして強欲に絡みとられたまま、その魂を地獄に落とし、我らの糧となるがよい。