スヱの体の一部である汚泥が、床に残っている。俺はそこに槍を突き立てた。

「我に仕える従属よ、その力を我に戻せ」

スヱの魔力なんて、大したことはない。

だけど、スヱを俺の中に吸収してしまえば、簡単にスヱの魔力を無効化出来る。

少しは俺の、糧にもなる。

「あはははは、本当にお前は、何も知らない無知なお坊ちゃんだね」

スヱはその隠し持っていた魔力を、全て解放した。

強大な力が、周囲を圧倒する。

俺の手にあった槍は、一瞬にしてかき消された。

「バカ息子、お前がその人間と遊んでいる間に、私はこのあたり一体のあらゆる魂を奪いとり、魔物の類いも喰い尽くした。おかげで、この周辺が静かに綺麗になっただろう? それがお前を怖れてか、天使の加護とでも思ったか!」

スヱの体が、膨張し膨れあがる。

「お前の与えた力を糧に、お前と変わらぬ力を手に入れた。私はお前を倒し、公爵家の最初の娘となろう」

「お前に俺は倒せない」

「ならばそれを、証明してみせるがいい!」

ムカデの殻に、ヒビが入る。

ずるりとそこから脱皮したムカデは、さらに巨大化し、棘を持つ禍々しい姿に変形した。

中空をくるりと舞い踊り、口から毒液を吐き出す。

「なんだよ、お前の従属じゃなかったのか」

「そうみたいだな。騙された」

「ホント、そういうとこいい加減だよね」

「別にいらねーだろ」

転がった抜け殻を蹴飛ばす。

「つーか、こいつの正体はムカデだったのか?」

アズラーイールは言った。

「人間って言ってたんだけどな」

「お前はもっと、自分以外の周囲に関心を持とう」

俺は、全身に炎をまとう。

「だけどまぁ、火竜に育てられた俺に、やっぱり虫タイプでくるとは、残念な奴だ」