「悪魔公爵の息子といえども、大した力はないな」

アズラーイールはあざ笑う。

スヱが大顎で噛みついてくるのを避けた。

「おのれ、出来損ないの、甘えきったクソガキが!」

ムカデの尾が、校舎の屋上に叩きつけられる。

俺は魔界の屋敷にあった槍を、手元に取り寄せた。

もう少し、ちゃんと実践を積んでおけばよかった。

襲いかかるムカデの額に、真っ直ぐにそれを突き立てる。

スヱは悲鳴をあげた。

「スヱ、大人しくしておけ。所詮お前の力では無理だ」

「無理じゃない、無理などではない!」

その平たい顔の両端についた眼が、涼介の姿を捕らえた。

その瞬間、スヱの標的は涼介に変わる。

「先にお前の魂をいただいておこうか!」

ぬるりと体を動かし、聖人の力を手に入れようと、スヱは涼介に向かった。

その百の足の一本を、アズラーイールの聖剣が切り落とす。

べちゃりと音をたてて崩れ落ちたそれは、しかしもぞもぞと流動し、すぐに元の体に戻った。

「天界の剣も、大したことはないな」

「俺の持ってる剣とは、タイプ相性が合わなかっただけだ!」

「おのれ、天使め、お前も許さん!」

スヱがアズラーイールに飛びかかる。

それを何度切り裂いても、本体が泥であるスヱには、効果がないようだった。

「その剣は、なまくらか」

「そう思うのなら、お前も受けてみるがいい」

笑った俺を、聖剣が襲う。

その剣先は頬をかすめ、赤い血が流れた。

「今は涼介を守るのが先だ」